顎関節症の随伴症状が起こるメカニズム
渡辺東洋医学研究所
(1)潜在的顎関節症
顎関節症を「下顎頭の耳側に気が流れていないところがあるために起こる疾患」と東洋医学的に定義できると、顎関節症は分かりやすい疾患になるのだが、触診してみると、自律神経失調症に悩む方の多くはこの定義に引っかかってしまう。しかし、顎関節に痛みがある人や開口障害がある人は少ないので、顎関節症と呼ぶことは適切ではない。そのため、このサイトでは、「顎関節の一部に気が流れていないが、顎関節痛や開口障害の自覚がないタイプ」を潜在的顎関節症、「自覚があるタイプ」を顎関節症と呼ぶことにする。
(2)顎関節症患者は、なぜ顎関節や顎関節周辺に痛みがあるのか。
顎関節症患者は、顎関節及び周辺の筋肉が萎縮し、硬くなっている。萎縮して硬くなっている筋肉を、気功治療や赤外線レーザーで緩めると、痛みが改善したり、消失したりする。
しかし、硬くなった筋肉を緩めても、痛みがほとんど変わらない人もいる。このタイプの人は、東洋医学で言う心虚(心機能低下)という状態になっている。心機能低下と言っても、心電図を取ると問題がない場合が多いので、脈診という東洋医学的診断法を使わないと心虚であることが確認できないことが多い。心虚の人は、肝機能低下などで胸部が萎縮し、心臓の可動域に制限が生じているので、気が分かると、胸部を触診しただけで心虚であることが分かる。
心虚の人は心機能の低下に伴って、交感神経が亢進し、神経が過敏になっているため、普通の人が感じないレベルの痛みを感じることがある。心虚で顎関節に痛みがある場合は、肝機能を上げ、心臓の可動域を広げると、痛みが改善したり、消失することが多い。
交感神経の亢進に伴って「何か気になると頭から離れない」という心虚特有の精神的症状がある人が多い。この症状があれば、脈診をしなくても、心虚であることが分かる。
自律神経失調症の患者の治療体験から得られた上記の事実から、顎関節および顎関節周への痛みは、顎関節周辺の筋肉の萎縮と心虚に伴う交感神経の亢進によって起こると考えられる。
(3)潜在的顎関節症の人はなぜ顎関節や顎関節周辺に痛みがないのか。
「私は肩が凝ったことがない」という人の肩の筋肉がガチガチに硬くなっていることがある。このタイプの人は幼児期に高熱を出し、肝機能低下で、全身の筋肉が萎縮していることが多い。幼児期に問題が生じると、体が不快感に慣れ、肩こりを感じなくなるのである。
潜在的顎関節症の人も、触診すると、全身の筋肉が萎縮して硬くなっている。幼児期に高熱や肝炎、腎炎、喘息、肺炎、溶連菌感染症などで肝機能低下が起き、全身が萎縮して捻れたとき、顎関節も萎縮して捻れ、気が流れない部分が生じたものと推定される。正常の人が突然その状態になると痛みを感じるような状態に顎関節がなっているが、幼児期からの慣れで、不快感を感じないのである。
肝機能低下が起こった年齢は、問診で分かる場合がある。問診で分からないケースでも、体の歪みの状態から肝機能低下が幼児に起きたことを推定できる。肝機能低下に伴う筋肉の萎縮で、骨格に明確な歪みが起こるのは、骨や関節が柔らかい幼児期に限られるからである。
また、変形した形がなめらかで自然なほど、発症した時期が早く、小学生以降に発症すると、変形になめらかさや自然さが見られないことも分かっている。
変形に左右の対称性がある場合、発症は体の特定部位に体重による力がかからない胎児期に発症したことが推定できる。
(4)潜在的顎関節症と随伴症状
潜在的顎関節症患者は、体の萎縮とともに内臓も萎縮し機能低下が起き、体力の低下が起こっている。しかし、臓器の機能にはある程度の余裕があるのと、体力低下に対する幼児期からの慣れもあり、日常生活に大きな支障を感じることなく生活できる人もいる。そのような場合でも、臓器の弱い部分に応じた症状、例えば、肺が弱いと喉や鼻に問題が生じ、肝臓が弱いとアレルギー性の問題が生じるなどの随伴症状がでることが多い。
臓器が異常に強く、自覚症状がない人もいるが、心機能の低下に伴う交感神経の亢進は、普通、避けられないので、「何か気になると頭から離れない」「異常に汗をかく」など精神的な問題や自律神経的問題を抱える場合が多い。
潜在的顎関節症の随伴症状は、
(Ⅰ)幼児期から随伴症状がほとんどないもの、
(Ⅱ)幼児期には随伴症状があるが、成長にともなって体力が付き随伴症状がなくなったもの、
(Ⅲ)幼児期には随伴症状があり、成長にともなって体力が付き随伴症状がなくなったが、思春期になり、成長ホルモンの増加や性ホルモンの分泌で、自律神経が不安定になり、再び随伴症状が出るようになったもの、
(Ⅳ)幼児期には随伴症状がなかったが、後に怪我や風邪、その他の病気が原因で、肝機能低下が起こり、体が萎縮して随伴症状が出るようになったもの、
(Ⅴ)幼児期には随伴症状がなかったが、成長した後、加齢に伴う内臓の機能低下で、体が萎縮して随伴症状が出るようになったものなどがある。
内臓の機能は20才過ぎると低下し始め、35才を過ぎると腎機能が急激に低下し、他の内臓も腎機能に比例して低下するため、40才頃から症状が悪化する場合が多い。
随伴症状は、内臓の機能低下の仕方に応じて、頭痛や首、肩の凝り、耳鳴り、手足の冷えや痺れ、動悸、息切れ、多汗症、目眩、喉や胸の違和感、慢性疲労症候群など、広範にわたる。
随伴症状は低下した内臓の機能を上げることで、改善あるいは消失するが、幼児期に原因があるため、治療期間が長くなるケースが多い。
(5)三焦虚と顎関節症
顎関節や顎関節周辺に痛みや開口障害がある顎関節症患者は、潜在的顎関節症とは異なり、顎関節や上顎、下顎に気が流れていたものが、何らかの原因で「下顎頭の耳側に気が流れていないところが生じた」人達である。
顎関節や上顎、下顎に気が流れている人は、顎関節の一部に気が流れなくなると、顎関節やその周辺の筋肉が萎縮し、圧痛が生じたり、開口時などに痛みを生じたりする。同時に、下顎にある承奬という任脈のツボの気が止まり、心臓を含む内臓に機能低下が生じることがある。任脈は承奬から発し、胸部の中央を通って恥骨に達するからである。
顎関節症の多くは、三焦経が虚することにより、頸椎3番の気が止まって起こると考えられる。三焦経は手の薬指から出て、肘、肩、首、耳の周辺を通り、眉毛の外側の端に達する。三焦経が支配する筋肉や骨、関節の一部の可動性が、怪我や内臓の機能低下による萎縮で、失われる(気の流れが止まる)と、三焦経が支配する筋肉や骨、関節、皮膚全てが連動して可動性が悪くなる(気の流れが悪くなる)。このとき頸椎の3番は、片側に引っ張られるため、可動性が極端に悪くなる。
頸椎の3番の気が止まると、督脈が支配する頸椎、頭蓋骨、胸椎、腰椎、仙椎などの気の流れが急激に悪化するとともに、その対応点である下顎の最下端の点周辺の気が止まる。下顎の最下端の点周辺の気が止まると、下顎から発する任脈の気の流れが悪くなり、任脈に沿って肋骨の胸部側の端の可動性が悪くなる。その結果、胸椎の可動性がさらに悪化するとともに、胸部にある心臓の可動域が制限を受け、鬱的症状や交感神経の亢進に伴う心臓神経症やパニック障害、多汗症、原因不明の痛みなどが起こることがある。
また、胸椎の気の流れが悪くなると、椎間板から出て内臓を支配する神経の可動性が低下して機能低下が起こるので内臓の機能低下が起こる。このとき、経絡の連鎖で内臓の機能低下に拍車がかかり、体が急激に萎縮する。臓器の強さに差があるので、臓器の最も弱い部分に応じた症状がでることになる。例えば、肺が弱いと喉や胸の違和感が生じたり、肝臓が弱いと胸痛や生理痛、飛蚊症が起こったりするようになる。
特殊な例であるが、全身の痛みで苦しむ39才の男性を治療したことがある。その男性は、三焦経以外の経絡が通っていたため、体が縮小均衡して症状が改善することがなく、20年間全身の痛みで苦しんでいた。しかし、三焦経を治療すると、他に問題がなかったため、20年間苦しんだ痛みが1回の治療で治ってしまった。今考えると、三焦虚による顎関節症により、全身に痛みが生じていたのではないかと思われる。
(6)噛み合せと顎関節症
歯茎に気が流れていて、上顎と下顎が柔らかければ、噛み合せに違和感は生じない。また、潜在的顎関節症の人のように、幼児期から歯茎が萎縮して硬くなっている人は、違和感に慣れてしまっているので、普通、違和感を感じない。
違和感生じるのは、(Ⅰ)歯茎に正常に気が流れている人が、三焦経が虚するなどで、突然歯茎に気が流れなくなるとともに、腎機能や肝機能が低下し、頭蓋骨全体が萎縮したとき、上顎や下顎が歪んだとき、
(Ⅱ)歯茎に正常に気が流れている人が、抜歯などの歯科治療で、噛み合せに変化が起きたとき、あるいは、歯茎に気が流れなくなってしまったとき、
(Ⅲ)歯茎に正常に気が流れている人が、高熱を出すなどして、肝機能低下が起こり、筋肉の萎縮が限界を超え、頸椎の一部がロックして上顎や下顎に気が流れなくなってしまったとき、
(Ⅳ)潜在的顎関節症の人が、抜歯などの歯科治療で、噛み合せに大きな変化が起きたとき、
(Ⅴ)潜在的顎関節症の人が、高熱を出すなどして、肝機能低下が起こり、筋肉の萎縮が限界を超え、上顎や下顎の変形が大きくなったときなどが考えられる。
噛み合せに問題が生じている人の多くは、頸椎の7番と3番の気が止まっている。頸椎の7番を緩めて可動性を回復させると、上顎が柔らかくなり、頸椎の3番を緩めると、下顎が柔らかくなって可動性が改善する。そのため、咬み合わせが自然に改善し、違和感が消失することが多い。(この治療は気功整体根治療術で最初行ったが、5mWの赤外線レーザーでも改善することが確認されている。
(7)顎関節症治療におけるスプリントの有効性について
米国国立口腔顎顔面研究所(NIDCR)はスプリントの長期的な使用に警告を出しているが、短期的使用が顎関節症治療に有効な場合があることを認めている。
スプリントの使用よる治療の症例で、スプリント装着前と装着して症状が消えた時点での写真を比較してみると、スプリント装着前に額から口の上部まであったアトピー性皮膚炎が装着後の写真では明確に改善しているものがある。装着前の状態では上下の歯茎に気が流れていないかったのが、スプリントを装着して症状が改善した時点での写真では、スプリントを装着した上歯茎に気が流れている。
一般に歯科医で使われるスタビライゼーション・スプリントは、左右の臼歯部が接触し、前歯部の切端はスプリントと接触しないように作られる。この構造が上顎の気の流れを改善するのに効果を発揮したものと思われる。
上顎に気が流れていない場合、左右の上顎の高さをチェックし、高い側の頬骨弓を適度な力で押し上げると、左右の上顎に気が流れ、逆に低い側を押し上げると上顎の気が止まってしまう。この現象は、幼児期に原因が起こったと推定される潜在的顎関節症においても起こることが確認されている。
上述の症例では、上顎の右側の萎縮が大きく、左側より右側が高い状態になっていた。スプリントを装着することによって右側の臼歯部が、咬合時に、低い側の臼歯部より強く上に押し上げられるようになったため、上顎の気の流れが改善し、アトピーが改善したものと推定される。
(8)顎関節症と開口障害
顎関節症による開口障害で食事ができなくなるため入院を繰り返す症例があった。三焦経を治療すると、一度の治療で顎関節症が改善した。
このタイプの患者の多くは、風邪などで体が萎縮すると、三焦経に属する手首や肘の関節の一部に気が流れなくなり、(5)三焦虚と顎関節症で説明したように、頸椎の3番の気が止まり、下顎の最下端の点周辺の気が止まり、顎関節症の症状が現れる。このとき、経絡の連鎖で起こる肝機能低下が大きいと、顎関節周辺の筋肉の萎縮が大きくなり、開口障害が起こると推定される。
(9)顎関節症と耳鳴り
顎関節症に関する耳鳴りは、(Ⅰ)三焦経を治療することで改善するもの、
(Ⅱ)腎経を治療しないと改善しないもの
とがある。
(Ⅰ)のタイプの耳鳴りは、(5)三焦虚と顎関節症で説明したメカニズムで起こる耳鳴りで、三焦経が耳の周りを回っているので、三焦経が虚したとき、内耳の可動性が低下して起こる。
(Ⅱ)のタイプの耳鳴りは、腎経が虚して起こる顎関節症で起こることがある耳鳴りで、腎経が虚すると、骨や関節が萎縮して硬くなるが、このとき耳周辺の頭蓋骨が萎縮して可動性が悪化し、連動して内耳の可動性が悪化して耳鳴りが起こると思われる。
内耳内の耳小骨の萎縮と可動性の悪化も関係すると思われるが確認できない。
(10)顎関節症と頭痛
顎関節症に伴って、頭痛が起こるのは、頸椎から出て頭部を支配する神経が頸椎で圧迫され、頭の筋肉や頭蓋骨が萎縮して硬くなるためである。頸椎や硬くなった筋肉を緩めれば、簡単に症状が改善するものと、肝機能を上げ心臓の可動域を広げないと症状が改善しない交感神経の亢進によるものとがある。
(11)顎関節症と心臓神経症
顎関節症の随伴症状として、動悸や胸痛、息切れを感じるケースがある。心電図や心エコー検査で原因が見つからないと心臓神経症と診断され、心療内科などに回され、精神安定剤や抗不安剤などを処方されることが多い。
顎関節症の随伴症状として心臓神経症的症状がある場合や、顎関節症の症状がない潜在的顎関節症で心臓神経症的症状がある場合、気が止まっている頸椎の3番と7番に気を流し、上顎と下顎の可動性が改善すると、症状が改善したり、消失したりする症例がある。
頸椎の3番の気が止まっていると、督脈が支配する頸椎、頭蓋骨、胸椎、腰椎、仙椎などの気の流れが止まったり、著しく悪化したりしているとともに、その対応点である下顎の最下端の点周辺の気が止まっている。また、下顎から発する任脈の気の流れが悪くなり、任脈に沿って肋骨の胸部側の端の可動性が悪し、胸部にある心臓の可動域が制限を受け、鬱的症状や交感神経の亢進に伴う心臓神経症やパニック障害、多汗症、原因不明の痛みなどが起こることがある。
頸椎の3番を緩めることで、頸椎が緩み督脈に気が流れ、下顎が緩んで任脈に気が流れると、胸部の可動性が上がり、鬱的症状や交感神経の亢進に伴う心臓神経症やパニック障害、多汗症、原因不明の痛みなどが改善したり、症状が消失したりするケースがある。
潜在的顎関節症に伴う心機能低下で起こる症状は、治療期間が長くなることが多い。頸椎の3番と7番を緩め、症状が改善して数日経つと、頸椎の3番と7番の気が再び止まってしまう。この繰り返しが30回を超えることさえある。治療回数が進むにしたがって、体力や症状が改善して行き、最終的には症状が消失することが多い。
頸椎の3番と7番を繰り返し治療しないと症状が消失しないのは、顎関節症により、内臓の機能が低下し、体が萎縮して、経絡が縮小均衡した状態で、再び顎関節症になるということが、骨や関節が柔らかい幼児期に、繰り返されたのではないかと推定される。
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