平成のカラオケ健康法・一


 

●第一章  カラオケ狂い

1. カラオケは大嫌い!
2. カラッペタ!
3. 勘違いからカラオケ狂い
4. カラオケボックス通い
5. 出だしが分からない
6. カラオケ教室に入る
7. レッスンを始める
8. ものになりません
9. バックがうるさい
10. 上手になりましたね
11. なんとか人前で唄えるレベルになったね
12. カラオケ喫茶
13. カラオケ喫茶に毎朝通う
14. 今日はうまい人がいるから
15. 声がでない
16. 歌が壊されてしまっている
17. 発声練習
18. 初心者なんだから同じ歌を何回唄ってもいいですよ



 

 

●1.カラオケは大嫌い!●

 私は大のカラオケ嫌いで、カラオケがあるスナックやパブには、決して入らなかった。しかし、酒を飲みながら、ピアノやプロの歌を聞くのは好きで、長崎生まれの若い女性が弾き語りをするパブによく足を運んだ。彼女のピアノに合わせて、唄う客がいるときは、最悪で、内心「カラオケをする連中は、どうして他人の迷惑が分からないんだ」と思っていた。

 

●2.カラッペタ!●

 私は大のおばあちゃん子で、茶の間に座れば、黙っていても、即座に、お茶が出てくるという、結婚後には考えられないような環境で育った。母のところには、近所の人やクリーニングやさんなどいろいろな人が、会話を楽しみに来た。「今日は気分がいいから歌でも唄ってみようかね」とお客さんの前で歌を唄うこともよくあった。

 そんな祖母が、ある時「昇一もなんか唄ってみろ」と言うので、私が唄うと、祖母は「お前はカラッペタだなあ。」とあっけらかんに言った。今考えると、私が小学生のときの祖母のこの一言が私をカラオケ嫌いにしたようだ。

 

●3.勘違いからカラオケ狂い●

 私の友人と家内の3人で食事をした後、近くのスナックで一杯やることになった。この友人も家内もカラオケが大好きで、早速歌い始めた。私も勧められたが「カラオケはだめなんですよ。」と断った。しかし酒も回り、何度も誘われるので、私もついに断り切れず、生まれて初めてカラオケで唄うこととなった。坂本九の「上を向いて歩こう」を唄ったのだが、あがってしまってカラオケのメロディーがよく聞こえない状態だった。それでも初めて出会った、周りのお客さんが、手拍子をして唄ってくれたし、友人も「よかったよ。とても始めてとは思えないね。」言うので、「私にはカラオケの才能があったんじゃないか」と勘違いしてしまった。

 

●4.カラオケボックス通い●

 翌日、家内を誘ってカラオケボックスに行ってみた。カラオケボックスは、周りに聞いている人がいないので、落ち着いて、バックのメロディーを聞きながら唄える。唄えなければ、途中でやめてもいいし、同じ歌を繰り返して練習してもいい。初心者にはもってこいだ。10回も通うとバックのメロディーとも合うようになって、少し自信もついてきた。

 私は個人レッスン専門の英会話スクールをやっている。生徒に「最近カラオケを始めた」という話をするとカラオケ好きはかなり多く、気心の知れた生徒とカラオケボックスに通うようになった。

 

●5.出だしが分からない●

 カラオケでは画面に歌詞が出るので、それに合わせて唄い出せばよさそうなものだが、最初の頃は遅れたり、早かったりで、しばらく悩んだ。家内に聞くと「ちゃんとバックの曲を聞いていれば、一、二、三、はい、どうぞって言うから、そこで唄えばいいのよ」と言う。私がいくら耳を澄まして聞いても、「一、二、三」も「はい、どうぞ」も聞こえなかった。いろんな人に聞いてみたが、誰もこつを教えてくれなかった。不思議なことに、半年もすると「一、二、三、はい、どうぞ」が何となく分かるようになった。

 

●6.カラオケ教室に入る●

 カラオケを始めて、2、3ヵ月も経ったころ、生徒の一人が「僕も半年前までは、カラオケをしたことが、全くなかったのだが、ちょうど半年前にカラオケ教室に入り、今では、ライオンズクラブで一番うまい人より、うまいと言われるようになった」と話してくれた。

 今思えば、カラオケでは録音して聞かない限り、他人に自分の歌がどう聞こえているか分からないので、この手の勘違いはありがちなのだが、当時はその生徒の言葉を鵜呑みにして、早速そのカラオケの先生を紹介してもらうことになった。

 

●7.レッスンを始める●

 「武藤さんからお話は伺っています。普通、課題曲と本人の唄いたい曲と二曲やってもらっているんですが、渡辺さんの場合、カラオケは全く始めてということなので、唄えそうな歌があったら、なんでもいいから言ってください。」との話だった。

 知っている曲をいくつか上げると「それじゃあ、“有楽町で逢いましょう”と“すき間風”をやりましょう。」ということになった。先生は片面に歌手の歌が、片面にカラオケが入っている練習用のテープを作ってくれた。

 

●8.ものになりません●

 3度目のレッスンのとき「"有楽町出会いましょう"はものになりません。"すき間風"一つに絞って練習しましょう。半年も練習すれば、どこに行っても、恥ずかしくなく唄えるようにしますから。」と言われてしまった。

 

●9.バックがうるさい●

 カラオケのレッスンは先生が、携帯用のカラオケ機材をカラオケボックスに持ち込んで行われていた。そのカラオケ機材から出るバックのミュージックがうるさくて、怒鳴るように唄わないと自分の声が聞こえない。 非常に唄いにくいのだが、これがカラオケ上達の秘密なのかと思って、一生懸命大声を出した。

 家でも、寝た状態から上半身を45度起こした状態にして発生練習をしたり、お風呂に入って唄うと大きな声になるので、出たり入ったりしながら、どこが違うのか研究したり、大きな声を出すための練習をいろいろやってみた。

 

●10.上手になりましたね●

 3ヵ月もすると、なんとかバックに負けない声が出るようになり、先生からも「上手になりましたね」と言われ、その気になってしまった。実際、同じカラオケテープを使って3ヵ月もやると、出だしが分からないと言うこともなくなっていたので先生の言葉をそのまま鵜呑みにしてしまった。

 私がカラオケをするきっかけを作ってくれた友達に、「カラオケ教室で練習したら、うまくなっちゃったよ。差をつけちゃうかも知れないけど、奥さんを交えて4人でやらない?」と挑発的な電話したら、早速行きつけのカラオケボックスで、唄うことになった。

 

●11.なんとか人前で唄えるレベルになったね●

 私は自信満々でトップバッターで唄い出した。友達は営業マンらしく「いやー、うまくなったねえ。」と褒めてくれたけれど、奥さんはぼそっと、「うまく中にいれて唄っている」と言っていた。これはどうも「最初と最後はつじつまが合っているけど、真ん中のリズムがずれている」と言う意味みたいだった。

 一人10曲ぐらい唄い、そのあと友達夫婦の行きつけのスナックで、カラオケのはしごをすることになった。カラオケマニア向けのスナックみたいで、むちゃくちゃうまい人がいるので、家内はビビッてしまって、一曲も歌わなかった。友達夫婦は、常連らしく、実に堂々と唄っていた。
 
 私はまだ自分がうまいと思っていたので、5、6曲唄ったが、うまく唄おうとしたせいか、あがってしまい、最後までバックのメロディーが聞こえない状態だった。帰りに、友達は一言「こういう場所で唄って恥ずかしくない最低のレベルには達したね」。私はこの一言で「先生のうまくなったね」は「大きな声が出るようになったね」と同義語だったことがわかった。

 

●12.カラオケ喫茶●

 カラオケのレッスンは午後1時から5時の間好きな時間に行って受けられた。生徒のほとんどが主婦。隣のウエーブというカラオケ喫茶(夜はカラオケスナック)のママも生徒の一人だったので、皆レッスンの前後に、そのカラオケ喫茶に行って、ステージでカラオケを競っていた。私は時たま練習用のカラオケテープを作ってもらうために、そこに行くことはあったが、この前の一件で自分の実力が分かったので、いくら誘われてもステージにはあがらなかった。

 ある時、ほかにお客さんが全然いないことがあったので、勧められるままに、練習曲を唄ってみた。練習で使っていたテープが、そこで作ってもらったものなので、外さずに唄えた。従業員の人も「うまいんじゃない」と言ってくれたが、今回は額面道理にはとらなかった。でも「ここで作ってもらったテープで練習した曲は、なんとかなる」と言う自信が付き、毎週ここで唄うようになった。

 三ヵ月もすると皆が「うまくなったね」と言ってくれるようになり、「本当にうまくなったのではないか」と思うようになった。

 

●13.カラオケ喫茶に毎朝通う●

 私は仕事の関係で年に2、3回法務局に行かなければならないのだが、駐車場はいつもいっぱいだった。近くにモーブというカラオケ喫茶があって、いつも駐車場が空いているので、そこに車を止めさせてもらって、書類ができるまでコーヒーを飲みながら時間をつぶしていた。

 モーブはカラオケ喫茶と看板に書いてあるので、当然のことながら、昼間から耳障りなカラオケの曲にあわせて、歌を歌う客がいた。カラオケをする前は、そんな客がいると、「今日は最悪の日だな」と思ったが、ウエーブで歌うようになってからは、「ほかにお客がいなければ、ちょっと練習してみたい」と思うようになっていた。

 ある時、他にお客さんがいないので、思い切って「実は最近、カラオケを習いだして…」とマスターに切り出すと、むこうも商売なので「是非歌ってください」という話になり、「まだ始めたばかりなので…」と言い訳をくどくど言ってから、歌い始めた。緊張していて、うまく歌えたとは思わなかったが、マスターはなかなかの商売上手で「初めて半年とはとても思えませんよ」と言ってくれた。これがきっかけで、モーブにほとんど毎朝通うようになった。

 

●14.今日はうまい人がいるから●

 三ヵ月もして曲や雰囲気になれ、腹式呼吸で軽く唄うようになると、マスターが「軽く唄うようになってからうまくなったね」と言ってくれた。おまけに、常連の中の2、3人が、私が唄っていると「今日はうまい人がいるから」と言って、得意な曲を2、3曲唄って帰ってしまう人が出てきたので、「本当にうまくなった」と思い込んでしまった。

 

●15.声がでない●

 その頃から、他のカラオケスナックでも唄うようになるが、うまく唄えるスナックと唄えないスナックがあった。特にマニアックな人ばかり集まる松風というスナックは、他の人が唄うとうまく聞こえるのに、私が唄うと、声がはっきり聞こえず、自分でもはっきり分かるほどへたくそに聞こえた。

 不思議に思って、わけを聞くと、マスターは「エコーは余りかけていないが、特に他と違った機械は使っていない」と言う。マイクが違うんじゃあないかと思って、変えてもらったが、うまく唄えない。曲によっては、多少ましなのはあるのだが、モーブで唄った時とは大きな違いがあった。

 

●16.歌が壊されてしまっている●

 翌日朝からモーブに行って、その話をしたが、理由はわからなかった。他にお客さんもいないので、エコーを調節してみたり、音量の調節をしてみたが、大きな違いは起こらなかった。マスターは、僕の歌を聴いて「歌が壊されてしまっている」と言った。松風で無理に声を出そうとして歌ったため、歌が変わってしまったようだ。

モーブはテイチクの機械を使い、松風は第一興商だったので、第一興商に電話をして理由を聞いたが、「松風のは直販したものではないので分からない」とのことだった。

 

●17.発声練習●

 とにかく発声だと思ったので、腹式呼吸で話す練習をしたり、寝た状態から上半身を45度に起こして発声練習をしたり、考え付くことはすべてやってみた。モーブにはあまり人のいない日中の時間に通い15、6曲練習した。

二、三週間して、発声が少し変わると松風に出かけて行って試してみた。

 

●18.初心者なんだから同じ歌を何回唄ってもいいですよ●

 私の唄う曲は、なぜか、皆が難しいと言う曲やうまい人しか唄わないと言う曲がほとんど。松風に行って、そういう曲をへたくそに唄って、機械のことを根掘り葉掘り聞くので、マスターも最後には「歌は悲しいところは悲しく、嬉しいところは嬉しそうに、めりはりを付けて唄わなければ駄目ですよ。渡辺さんは初心者なんだから、やさしい歌を一曲だけ選んで、繰り返し練習した方がいいですよ。同じ歌を何回唄ってもいいですから。一ヵ月すればうまくなりますよ」と言われてしまった。「同じ歌を半年以上練習しているんです」とはとても言えないので、「多分発声が問題なんだと思います」と答えると、「いや、歌は心です。声が出なくてもうまい人はいますから」ととどめを刺されてしまった。

 後でわかったのだが、このスナックでどんな曲でも上手に歌えるという人は少なく、得意な曲を2、3曲歌って帰る人が多かった。僕のように下手な歌を15、6曲歌うというのは掟破りだったのだ。


 


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