*篠崎宏二氏に関する資料と「駆け落ち」について
篠崎宏二氏に関する膨大な資料がある。篠崎氏と付き合った期間、つきまとわれていた期間、私が書き留めたものだ。篠崎氏の世界は、異常心理学の世界、常識がある人には信じられない世界だった。
篠崎氏は、私の好奇心をとらえた。また、私の友人達の好奇心をもとらえた。篠崎氏につきまとわれていた期間、その後の経過を知りたがる友人達にその都度状況を話してきた。私が書きためた篠崎氏のデーターは、膨大なものになっている。
篠崎氏が600万円など返す気がないと分かったとき、何とか回収できないものかと一気に小説「駆け落ち」を書き上げた。
篠崎氏は男女に関わらず、人を利用して生きてきた。手っ取り早く女性に貢がせるような事をしてきた。人を騙して生きてきた。迷惑行為をやり続けてきた。だがその非道ぶりは篠崎氏の一つの見方であるが、全てではない。
サイコパスは「わからない」のだ。常識的な人への接し方。自分の行動が客観的にどう見られているのか。結果がどうなるのか。愛すると言うこと。相手の立場になってみるということ。自分が何をしているのか、何をしてしまったのかと言うこと。
篠崎は「今」にしか生きていなかった。過去も未来も他人事だった。自分を投影するための、自分の存在証明となる女性を必要とし、彼女達に優先順位をつけるというやり方で行動を決め、それ以外は全て攻撃の対象だった。
「どうしてこうなったのか」篠崎氏にはわからない。自分が種を蒔いたことにも気がつかない。
私は篠崎氏のストーカー行為によって、結果として多くのものを失ったが、後悔はしていない。
私は篠崎氏の一面を愛していたからだ。彼はもがき苦しみ続けていた。本人も気がついていない「悲しさ」「寂しさ」を私は理解できた。だから、彼の見境のない行動を阻止しようと争い続け、なだめ続け、最後に避け続けたが、憎んだことはない。
サイコパスとして生まれてしまったのだから、その存在を認めるしかない。
全く、仲良く過ごした時間も良い思い出も、ほとんど何もない付き合いだった。ただ、争っていた。駆け引きをしていた。このような人間関係は初めてだった。
今、一つの課題をこなしているのだと私は思う。
18年1月28日 渡辺 浩子
(06/01/29)
12月26日の夜、家内が夜中になっても帰って来なかった。後で聞くと、多摩市に住む篠崎氏(電話 080-5421-7856)から、言うとおりにしないと、相談質問版に、渡辺さんが困るような書き込みを続けると脅され、帰ることができなかったとのことだった。実際、相談質問版に、困るような書き込みをして、消してみせ、「僕はコンピュータについては何でも知っている。証拠が残らないようにIPアドレスも自由に消せるんだから」と脅したという。
篠崎氏の存在を知ったのは、2年前、家内が介護事業所を同じビルの同じ階に立ち上げたときのことだった。治療室で、治療をしていると、突然怒鳴り声がして、20〜30分ほど続いた。
後で家内に聞くと、「知り合いの息子さん(篠崎氏)がコンピューターの設定をしてくれると言ったので、来てもらったら、ヤクザがやって来て、篠崎氏から借金を取り立てようとした」とのことだった。
ヤクザは、その後もやってきて、大声で怒鳴って帰ったが、家内がビックリして、事務所を閉めてしまったので、そのうち来なくなった。この時点では、篠崎氏の名前も知らなかった。また、問題は解決したと思っていた。念のために、「お金を貸して解決したのなら、そのお金はくれてやったと思うように」と家内に言っておいた。
篠崎氏の名前を知ったのは、去年の夏だった。僕の携帯に突然篠崎氏から電話がかかってきた。このとき初めて篠崎という名前であることが分かった。家内のことについて何か言っているのだが、全く意味が分からないので、「家内に話を聞いてから、電話します」と言って電話を切った。家内に聞くと、ヤクザが怒鳴り込んできたとき、コンピューターを設定してくれた人で、ストーカー的につきまとわれて困っていると言う。篠崎氏に電話し、問題があるようでしたら、「顧問弁護士と一緒にお伺いします」と言うと、突然低姿勢になり、「気を悪くしたなら誤ります。渡辺さんに迷惑をかけるようなことはしませんから」と言う。
12月25日に篠崎氏から電話があり、「メリークリスマス、元気になって良かったですね。」「どうも。」と言う会話があった。その話を家内にした翌日の夜、家内は篠崎氏に夜中まで脅されたそうである。「ホームページを立ち上げたときから、今回のようなことが起こることは予期していた」ので、彼が何を書いてもかまわないから、相手にしないようにと家内を説得した。
このとき、初めて分かったのだが、ヤクザに怒鳴り込まれ、困った家内は、篠崎氏にお金を渡してしまっていた。篠崎氏は、家内がお金を貸している弱みにつけ込んで、その後ストーカー的につきまとい、家内からお金を巻き上げ、総額で600万円に達するそうである。篠崎氏は、相談質問版に繰り返し、書き込みをし、家内に脅しの電話をかけて来たという。
一切篠崎氏の脅しには乗らないようにと家内に厳命すると、12月29日の朝、篠崎氏から、「早く警察に出頭しろ・・・」などの脅迫と思われる電話がかかった。相手にせず、他に同様の被害を受けている人がいる可能性が高いと思われるので、事実をホームページに書くことにした。
※篠崎氏に脅迫されたり、書き込みの手伝いをした人などの情報を知っている方は、タイトルに「篠崎情報」と書いて、soodan@dream.comまでお願いします。(05/12/29)
※「篠崎氏について」の掲載に伴い、ホームページ内アドレスを変更。(06/01/03)
1.篠崎宏二氏は1955年1月5日大分県大分市大字上宗方の生まれ。大分に母親がいる。二人の兄とは絶縁状態。篠崎氏は阿南宏二という名であったが、は犯罪歴を隠すために、数回結婚、そのたびに名字を変えている。(06/01/08)(06/01/19)
2.「恐喝」の「知り合いの息子さん(篠崎氏)がコンピューターの設定をしてくれると言ったので、来てもらったら、ヤクザがやって来て、篠崎氏から借金を取り立てようとした」に誤りがあることが分かった。
家内が介護していたKさん(86才)と篠崎氏は、同居していたが、血縁関係はない。Kさんは、愛人Yの母親。(06/01/08)
3.1月5日に篠崎氏から家内に「おまえの子供や両親に手を出す」という電話があった。会話は家内が録音していた。
人には、恐喝されやすいタイプとされにくいタイプがあるようである。僕にとっては、不思議としか言いようがないのだが、家内は「おまえの子供や両親に手を出す」と言われただけで、震え上がってしまい、脅しに屈して、1月6日に篠崎氏に会っている。
「このときは、同居している母に騒ぎを知られるのがいやで、電話に出てしまった」と家内が言っていたので、母に篠崎氏による恐喝のことを説明し、以後電話を取り次がないように言った。
家内が、恐喝のプロ、篠崎氏から逃れるには、篠崎氏との過去の経緯など、少しでも恐喝の対象となることは、公開してしまうことが必要だと思われる。また、篠崎氏が子供や家内の両親にストーカー行為を行うようなことがあれば、現住所や顔写真の公開が避けられなくなると思う。
4.2006年2月27日1時30分頃、多摩市乞田にあるアパートで家内と共に死去。
家内は、篠崎氏から「一緒に死んでくれ」と言われたことがあると言っていた。僕は、家内の心理操作をするために、そういうことを言ったのだと思っていた。しかし、今思えば、篠崎氏もサイコパスとして生まれたために、他人の気持ちが分からず、常に敵対関係としてしか、人間関係を持つことができなかったために、苦しんできたのだろう。
家内は知能指数が200を超え、測定不能であった。全国の学力テストで6番だったことがあると言っていた。しかし、判断力が小学生低学年レベルで、将棋や碁は弱かった。低い判断力と高い知能指数で、やっと一人前だったのである。そのため、人の言葉の裏を考えることができず、他人の言葉をそのまま信じてしまう傾向が強かった。
家内は、篠崎氏が何を考えているか知るため、「話をしなければ」という気持ちが常に働いていた。篠崎氏も他人の気持ちが分からないため、自分の脅しに、相手が何て言ってくるか知る必要があった。家内は幼児期から臆病で、篠崎氏から「北海道にいる両親に手を出す」と電話で言われただけで、震え上がってしまうほどであった。そして、判断力がないため、その気持ちを正直に篠崎氏に言ってしまうのである。篠崎氏は家内にとって天敵のような存在であった。家内は判断力がないため、物事が思い通りに行くことがなかったと思われる。他人を注意深く観察しながら、高い知能でなんとか人生を乗り切ってきたのである。今考えれば、家内の心はフラストレーションで一杯で合ったと思われる。家内は介護の仕事が天職だと言っていた。夜中に、電話がかかってきても、喜んで出かけて行って、面倒を見ていた。可哀想な人を見るだけで、心が安らぐと言っていた。今考えると、そこに家内の心の苦しみの深さが表現されていた。
2月23日の昼間、友人の原さんと高橋弁護士、家内がいるところに、西山さんの委任状を持っている篠崎から電話がかかってきて、『600万出せ』と言ってきた。家内が「そんな金はない」と断ると、しばらくして、また篠原から電話がかかってきて、『渡辺さんのことが明日雑誌に載る。80万出せば、今なら止められる』言った。『今検事のところ行って、篠崎を告訴すれば、全て解決する』と高橋弁護士が家内に言ったが、家内は応じようとしなかった。その日の夜9:59分に、「ぱぱへ」という遺書を書いている。
家内は、篠崎氏のサイコパスとしての苦しみを、自分の苦しみと重ね合わせていたのだろう。
篠崎氏は一人では死ねないが、自分が死ぬと言えば、一緒に死ぬという確信があったのだろう。6.自殺の真相
《メールが残されていた》4月30日に家内の友達が数人お墓参りに来てくれた。その中の一人が、「浩子さんが亡くなる前にメールをもらった」と言う。携帯の着信歴を調べて、睡眠薬を飲んだのが、2月17日の午後1:30前後だと割り出したが、メールをチェックしていないのを思い出した。
家内は僕が逮捕された日の二日後の2月16日から篠崎のメールに返信するようになり、2月25日の「死ぬな」という題のメールまで続く。篠崎の「Re:死ぬな」には、
「死ぬなってあんたが殺してるんじゃないのか。其れぐらいわかるよね。−END−」
と書かれている。
受信ボックスには2月26日まで、毎日数通、篠崎からメールが来ている。
26日の夕方家内がいなくなり、3月2日に失そう届が出される。
家内は「保存メール」をメモ代わりに使っていて、2月27日9:45に「どうしても行けない」という題で
「殺されそうだ。殺されるくらいなら自分で死ぬ。好きにあぱれたら。」
と書き残している。死に旅立つ4時間ほど前のことであった。
(06/01/10)(06/01/13改訂)(06/05/03)家内の近況報告
12月21日、私の所属していた針灸師会に、篠崎氏から電話がかかります。関連する回線に掛けつづけ、とうとう私の所属する部署にかかってきました。
私の携帯は通話もメールも受信拒否にしていましたが、篠崎は「解除」を要求してきました。もちろん職場にもホームページがあり、掲示板も付属しているため、「そこに居られないようにしてやる」という篠崎氏の言葉には真実味がありました。そばにいた同僚に事情を説明しました。しかし、私は職場の上司に、事態が広がっていることと篠崎氏との関わりが知られるのが辛く、職場にいるときは受信拒否を解除していました。
「二度と接触するな」という夫の警告を無視し、1月4日に篠崎氏からの電話に出ました。家には母がいたため、母に?がる事を恐れました。なおかつ私にも言い分があったため、篠崎氏に伝えました。
1月6日、篠崎氏と会談。
夫は激怒しましたが、私は夫に気持ちが伝わらなかったことにショックを受けて、「みんな嫌いだ」と言いました。「出て行け」という夫に「ありがとう」と言いました。夫は私に手を上げ、深夜、私はいやみを込めて、篠崎氏に「おめでとう。離婚だ」とメールしました。
その後も篠崎氏は、私に電話をかけ続けてきます。無視してきましたが、1月11日、職場で電話に出てしまいました。1月13日、上司に事情を説明しました。(06/01/14)
昼食を食べて、事務所に帰ってくると、男が近づいてきた。以前家内の事務所で、ちらっと見たことがあるので、篠崎氏と分かった。1メートル近くまで近づいてきたので、「中にはいると家宅侵入罪で警察に訴えますよ。」と言った。篠崎氏は、それにかまわず、中に押し入ってきたので、携帯で家宅侵入の証拠写真を撮った。僕の携帯を奪おうとした篠崎氏ともみ合った。「暴力をふるったね」と言うと、そのまま出ていった。(06/01/26)
@篠崎氏は、12月6日に長野県に行き、一泊して、にしやまさんと会っている。
Aにしやまさんは、(1)不安神経症、気分障害などの問題を抱えていたこと、(2)短期間で普通の治療に換算すると、100回分の治療をしたこと、(3)体の壊れ方が、僕と酷似していること、(4)当時、脳の治療の必要性が分かっていなかったことなどから、僕と同様精神的に非常に不安定な状態になっていたため、篠崎氏につけいれられた可能性が高いと思われる。
Bにしやまさんは、12月20日頃、長野県で八王子警察署員による事情聴取を受けている。
(06/01/08)
篠崎は、被害者とされる人物(にしやまさん)の委任状を私に見せた。
「法的に有効だ。僕が示談すれば、とりあえず解決する」
渡辺の携帯電話に嫌がらせの電話を掛けたり、事務所に電話を掛け、アルバイトの学生に「共犯か。早く辞めろ」という電話を掛けたりする行動全てが、代理人としてやっていることだという。自分はその人のためにやっているので、全く悪くないということだった。人助けだという。
「示談するにはいくらかかるの?」
「君が出すの」
「たぶん…。」
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という資料が家内の書いたものの中から出てきた。篠崎宏二(阿南宏二)氏は、11月23日頃この委任状を手にしている。(2)法律の知識が多少ある方なら、分かると思うが、「篠崎氏とにしやまさん」の「にしやまさん」をクリックして出てくる彼女の投稿を読んだだけで、僕の治療に違法性がないことは明確である。
(3)にしやまさんが警察にどのような話をしようと、客観的な立場から、僕の治療には違法性があることを認めることは不可能であり、実際「最後のお願い。 投稿者: にしやま 投稿日:12月 1日(木)19時11分48秒 」で「私が被害届けを出したところで立証にはならないそうです。」と書かざるを得ない状態になっている。
(4)篠崎氏は、12月6日に長野県に行き、一泊して、にしやまさんと会っている。
(6)「二人がその後もメールで緊密に連絡を取り合っている」と篠崎氏は、家内に話し、メールも見せている。
(7)12月の末に、家内は「にしやまさんが渡辺さんを起訴した。逮捕が近い。」と脅されている。
(8)起訴したかどうかについては確認していない。起訴したとしても、法律的には意味のない起訴である。しかしながら、家内を恐喝するには、十分であった。
(9)篠崎氏の手にある委任状がにしやまさんのものであり、起訴が事実だとすると、にしやまさんは、篠崎宏二(阿南宏二)氏と共謀して家内を恐喝した証拠を、警察と危険な篠崎氏の手に残したことになる。
(10)にしやまさんは、八王子警察から掲示板に「被害者情報を求む」などのような書き込みをしないように警告されている。「営業妨害」にあたるため、警察としては、見過ごすことができなかったようである。
(06/01/30)
@投稿者のIPアドレスは、管理者が見ることができるようになっている。
AここをクリックするとPCで、1月2日に管理者が見ることができる相談質問板の裏側が見学可能。
B管理者からみると、相談質問板の書き込みには、1ヶ月半ほど、篠崎氏が1月1日12:21:06に公表したIPアドレスwtl7sgts51.jp-t.ne.jp、wtl7sgts53.jp-t.ne.jpと篠崎氏のIPアドレスsoftbank219175107013.bbtec.net、堀さんのnttkyo346041.tkyo.nt.ftth.ppp.infoweb を含む数個の全く同じIPアドレスが、毎日何回も繰り返し現れる。表から見ると、投稿者の名前が異なるので、色々な人が書いているようにみえる。
Cwtl7sgts51.jp-t.ne.jpとwtl7sgts53.jp-t.ne.jpは、掛け合い漫才のように、対で出て来ることが多い。
Dwtl7sgts51.jp-t.ne.jpは「本物の『被害者』みき」さんのIPアドレス(01/01 17:35:22)。
E12月29日に、「脅迫」をアップロードしたので、篠崎氏や篠崎氏に協力した人達の混乱が読みとれる。
「すぐに、渡辺さんの掲示板を閉鎖しろ」篠崎氏から電話があったのは11月中旬のことでした。
「人の掲示板を閉鎖なんか出来ない。私にはそんな力もないし、渡辺さんが私の言うことなど聞くわけはない」私は答えました。
「訳は後から話すから、とにかく閉鎖するように渡辺さんを説得しろ」篠崎氏はそう言って、電話を切りました。
私は言われたとおり掲示板をみました。とんでもない内容に掲示板から目が離せなくなりました。
私は掲示板を閉鎖するように、せめて篠崎氏の投稿だけでも拒否するようにそれとなく夫に懇願しました。しかし、夫は無視しました。
篠崎氏の書き込みが気になり、私は日に何回も掲示板を見るようになりました。
それから私は篠崎氏の投稿と言動に振り回されることになります。
「危ない。すぐに離婚して」
「できるだけ早く、その家を出て行くんだ」
篠崎氏は当初、ものすごい気遣いと優しさで私を説得してきました。
「僕は逮捕の日付まで知っている」と篠崎氏に言われ、信じ切った私は警察にまで聞きに行きました。
篠崎氏の仕掛けに私は完全に取り込まれていました。
この2ヶ月に、掲示板の水面下で行われていた私と篠崎氏との取引。それ以前の私と篠崎氏のことを語る前に、サイコパスについて調べた事を書かせてください。篠崎氏はサイコパスです。サイコパスという人格を理解しない限り、篠崎氏の行動を理解することはできないからです。
18年1月3日 渡辺 浩子
サイコパスと、定義される人々がいる。サイコパスとは、犯罪,あるいは破壊的な犯罪様行動をとる人々につけられる臨床名である。
実際に被害にあったもの、あい続ける者が、「なぜ」と興味を持ち、探求する。実例を知らない人々は「そんな人間がいるものか」と、疑問を持つだろう。
幼い頃からの問題行動。成人してからの反社会的行動。
良心の呵責を感じず、罪悪感がない。感情に奥行きがないため他人に感情移入ができず、非常に利己的で自分の利益にしか念頭になく、将来を見つめることがないため刹那的に人生を生き、興奮を求め、自分の行動をコントロールできない。
責任は転嫁する。自分の感情を大事にする。自己中心的で傲慢、自分の権利を主張する。自分の権利のために、他人を糾弾する。
共感能力の欠如、ずるく、ごまかしがうまい。自分の行為を正当化する。他人を支配したがる。計画をしょっちゅう変える。計画に基づいて資格を取るということはしない。何もしてこなかったことを悔やむこともない。将来をまじめに考えることもない。将来の目標をよく語るが、具体的な計画を持たない。他人の金を当てにし、その日暮らしが多い。経済的な義務を果たさない。
すまないという気持ちがもてない。持つ理由もない。それが社会だ。利用したその人の権利や苦しみに無頓着で、他人の感情など関心の外。自分が満足するために他人を利用する。弱い人間、優しい人間が、お気に入り。
「どうして私のつらさを周囲は理解できないのか」
「私は誤解されている」
「世間から酷い仕打ちを受けている」
「あいつが悪意をもって私のじゃまをした」と、他人の同情心に訴える。
自殺をほのめかしたり、怪我を装ったり、あらゆる嘘をついて、期日を引き延ばしていく。
興奮がなければやっていけない。仕事は持続しない。怠けたり眠ったり。集中できない。
義務と責任、誠意や約束など口先だけで、信用がおけない。仕事は休む。会社の金を勝手に使う。解っていると思われる責任に敬意を表さない。広く受けいれられている倫理に不従順。
絶対的な力に対する強い執着がある。上流階級の話。富豪の話。政治の話。疑似戦争であるスポーツの話。学問の話。自分に従わない他人の存在を認めない。人の話を聞いていられない。傲慢な態度で、人をこき下ろす。
皮相的で、口達者。言葉を操る能力に優れ、人を惑わす。餌食の弱み、不安定な精神状態や孤独の匂いを驚くべき才能で嗅ぎつけ、自分に有利に事を運ぶ。
自分は特別で、何をしても許されると思う時期がある。もし、犯罪行為が発覚しても不運なだけだった。悪い奴等は、つかまらない。
自分は善良だから捕まってしまった。
嘘や騙しを習慣とするサイコパスはいずれ見破られる。小さな村社会では、「変人、冷血漢、鬼畜」と認知されながらも、人々に監視されながら、厚意によって生き抜いていくかもしれない。
場所を移したサイコパスは、すぐに適応し、人々の援助で生活する。
恐ろしいほど人を引きつける彼らの魅力と、利用できる人を嗅ぎつける天性の能力。餌食の弱みを握り自分に有利に事を運んでいく。営業マン、実業家、教師、政治家、聖職者。自己演出する仕事が向いている。
サイコパスは、狭義の意味で反社会的人格障害と混同されることもある。しかし、反社会的人格とサイコパスは似て非なるものだとヘアは言う。サイコパスが犯罪を犯すとは限らず、サイコパスの判断項目に当てはまりながら、法には全く触れずに、自分の利益のために、人々を魅惑し、搾取し、社会的に成功を収めているサイコパスもいる。今日のような競争社会では、「合」社会的人格となりうる場合もある。
たまたま犯罪が表面化したときに人格「障害」となる。犯罪はその人格を的確に表現する。
先天的なサイコパスは、後天的なサイコパスのモデルになり得る。
騙すつもりは全くなく、結果として騙してしまった。しかし、そのことについては仕方がないと、天然のサイコパスは無邪気に言う。自分の行った悪事を人ごとのように話す。
故意がない分、より危険だ。社会、共同体が厳しく対応しない限り、彼らは、止めない。厳しく対応したとしても、彼らは変わらない。
知能の高低、臆病か大胆か、環境の違い、貧富、援助の有無。能力の高いサイコパスは、善悪ではなく、法に触れるか触れないか、自己保身で行動を規制することもできる。法に触れなければ何をやってもいい。自分の快、不快、見栄えが行動の規範である。もし、友人、知人、家族が援助すれば、サイコパスの短所をカバーすることもできる。
女性のサイコパスは、恋愛関係で人々をずたずたにするかも知れない。もちろんこれは、たとえ生命が奪われようと犯罪にはならない。結果は彼女のせいではない。魔性に引きつけられた人々が勝手に犯し、彼女は巻き込まれただけなのだから。
被害者こそが、加害者だと思わせる。サイコパスの常套手段だ。
利口なサイコパスは、自らのために、餌食となる人々の養成にも如才ない。ゆとり、助け合い、平等と言った美しい言葉を吐き、将来の収穫に備える。餌を巻き、獲物を呼び寄せる。狙いを定め、必要とするものを与える。
サイコパスは、どんな社会にもある割合で出現する。ある社会を創造し維持し、あるいは時期によっては破壊するために必要とされ、用意されている人格なのかも知れない。犠牲は他の社会から求めることもできるからだ。(06/01/04)
Harelによるサイコパスチェックリスト
1, 口達者・表面的魅力
2, 過去における「サイコパス」あるいは類似の診断
3, 自己中心性・自己価値の誇大的な感覚
4, 退屈のしやすさ・フラストレーション耐性の低さ
5, 病的に嘘をついたり人を騙すこと
6, 狡猾さ・正直の欠如
7, 良心の呵責あるいは罪悪感の欠如
8, 情緒の深みや感情の欠如
9, 無神経・共感の欠如
10,寄生虫的な生活様式
11,短気・行動のコントロールの欠如
12,乱交的な性関係
13,幼少期からの行動上の問題
14,現実的で長期的な計画の欠如
15,衝動性
16,親としての無責任な行動
17,数多くの結婚・離婚歴
18,少年時代の非行
19,保護観察あるいは執行猶予期間の再犯の危険度が高い
20,自分の行動に対する責任を受け入れることができない
21,他種類の犯罪行為
22,薬物やアルコールの乱用が反社会的行動の直接の原因ではない
脳の機能に、サイコパスの発生の説明を求める事もできる。胎児期・乳幼児期の外傷や化学物質の摂取。思春期の脳内の化学物質の過小過多、ホルモン異常。
サイコパスの脳の機能を調べると、通常人の脳と異なるところが指摘される。大脳皮質の知覚皮質の機能が低く、人の痛みを理解するといった、情動が理解できない。言語処理を右脳で行う。感情処理を左右両方の脳で行う。等々。
サイコパスの前頭前皮質の活動は著しく低い。これは、睡眠中の通常人の脳にきわめて近いという。検査に退屈しているのかも知れないし、本当にサイコパス達は人生を、夢の中で、過ごしていく一群なのかも知れない。
サイコパスから身を守ろうにも、流れ者のサイコパスが真実を語るわけがない。彼らは、演技できる。演技や嘘は、本物以上に人を惑わせる。
自らを守るために,サイコパスを見極める指針はないのだろうか。一度酷い目に遭うしかないのだろうか。全ての人を疑ってかかるしかないのであろうか。
本人がサイコパスかも知れないと言うことは、家族や特に母親が、一番解っていることだ。サイコパスは矯正できない。脳の機能の問題もあるからだ。
成人後は、子ども本人の問題だという善良な意見もある。しかし、本人が、罪の意識もなく、重大な被害を安定している社会に与える前に、もし、母親の相談を受け入れ対処する機構があれば、何割かは防ぐことができたかも知れない。善悪ではなく、ルールを教えるしかない。※ 参考 診断名サイコパス ロバート・D・ヘア)
私はリアルタイムで篠崎との関係を親しい友人に話してきました。
「そうだ。おもしろい話があるわ。篠崎さんと会って、彼が何者かが解ったの。サイコパスよ。不思議な人だった。サイコパスと私に指摘されて、認めて、むしろ喜んでいたようだった」(06/01/05)
ある日、篠崎の10年来の愛人Yが私を呼び 「お話があるの」Yは言った。
「四時に仕事が終わりますし、それからなら会えます」
私とYは喫茶店で待ち合わせる。
「出身は、大分なの」
Yは私の反応を確かめるように、篠崎について切り出した。
私は驚いた。篠崎は出身は横浜と言っていた。
「年は四十八」
「四十八?」
「あら、あなたには何歳と言ったのかしら」おかしそうにYは言った。
「若く見えるけど四十八よ。とにもかくにも身なりにだけには気を使う男だから。優しいでしょう。優しいから、みんなが騙される。どうしょうもない嘘つきよ」
Yは、自分の携帯電話を見つめて言った。
「これは、娘の名前で契約しているの」
Yの名前はブラックリストに載っていて、Yの名前では契約できないためだった。篠崎と付き合ってそうなってしまった。(06/01/06)出した。
Yは篠崎について話し始めた。私は、篠崎の言っていたことの重要な部分がほとんど、嘘だと知った。
「嘘よ。みんな嘘。口がうまくて、誤魔化すのがうまい。人を当てにして、暮らしていく。そう言う男なの」Yは言った。
篠崎には、娘が二人いる。実家の母が育てた。篠崎は付き合う女たちに子供はいない。自分の遺伝子を残したくないといっているはずだが孫までいる。犯罪を繰り返し、父の葬式にも篠崎は出られらなかった。
祖父が事業で成功し篠崎の父は、その財を食いつぶすことで一生を終えた。篠崎の父も放蕩者で愛人を囲っていた。小学生のとき愛人宅で愛人の手料理を食べた。帰って母親にすごい剣幕でしかられた。しかし愛人は子供の目で見ても色っぽく母とは違うと感じた。母は
「何よ。化粧落としたら、たいしたことないくせに」と言っていた。
母は篠崎を溺愛し、はさみすら使えず、小学校に入って教師に指摘された。篠崎は、母親以外の作るおにぎりを食べることができなかった。母はどんなときも篠崎の味方だった。
母は弟の家族と暮らしている。父が食いつぶした祖父の財は、今度は弟が食いつぶし尽くした。最後に残されたビルは、祖父の名前を残したまま人手に渡ってしまった。父は、放蕩の末に数年前に死んだ。隠れて暮らす篠崎は遺産を放棄した。
四度結婚し、一度目の妻は精神に異常をきたした。二度目は、借金から逃れる都合と犯歴を隠す理由があって、苗字を変えるために結婚した。三度目は、金のために、外人の売春婦と偽装結婚し、四度目は、のみ行為で留置場に入れられ、保証人が必要と思い結婚した。篠崎と付き合った女は、皆、ひどい目に会っている。四度目の妻はソープで働き篠崎を養った。
(06/01/09)
「生まれながらのどうしようもない嘘つきよ」Yは言った。
篠崎は、随分幼い頃から嘘をついているという自覚があった。それも、たわいもないことに嘘をついた。小学校一年の時、「僕は鉛筆工場の社長の息子なんだ」と言っては女子の前で鉛筆を折った。鉛筆など家にいっぱいある、と行動で示した。
演技することもうまかった。人によって使い分けていた。母親似のかわいらしい顔をしていた。年長の男女が、篠崎の美貌に目をとめ、かわいがってくれた。
小学校の高学年で、篠崎の父親は、篠崎の部屋に万引きしたものが大量に隠されていることを知った。父親は篠崎を叱ることもなく、
「じゃあ、返してこよう」と、一緒に商店街を回った。久々の親子の時間が過ぎていった。頭を下げ続ける父親の姿を見て、篠崎は憑かれたように行っていた万引を止めた。
しかし、親の財布からは平気で金を取っていった。
父親の大事にしていた切手や古銭やコインを売り払う。最初は少しずつ、最後には一気に売り払った。千円硬貨が六千円になった。トータルすると百万近くになった。
しかし、両親は表だって篠崎を咎めることはなかった。ただ、篠崎が何をしでかすか分からないので、家にカギをかけて出かけるようになった。カギは篠崎には渡していなかった。
幼いころから女子にもてていた。小学生の時、自分に好意を持つ女子達を理科室につれていって陰部に「よーし」といって葉っぱを貼りつけた。肛門にタンポポの花を刺したこともある。篠崎が取っちゃだめだと言ったので女子が取らずにいたため、その母親から苦情がきた。
母親は、篠崎をかばい続けながら、篠崎の苦情に慣れていった。
(06/01/10)
篠崎は、どうしょうもないいらだちを思春期に感じた。爆発するという感覚だった。いてもたっても居られない。破壊したい。体の中のざわめきが止まらない。何かを破壊したい。自慰をしても、女と経験しても収まらなかった。人を殺さなかったのは、ただ運がよかったからだ。その時期、人を殺してしまった子ども達の気持ちがよく分かる。自分の中の怪物が目覚めていくのが分かる。コントロールできないものに自分が乱されていく。同じように感じている友人の姿を見た。友人は、どうしようもない衝動を、拳でコンクリートの壁を殴る事で表現していた。友人の苦悩の姿と拳の血を篠崎は間近で見ていた。
人を殺してみたい。殺すと、どうなるのだろう。自分は、変わるのだろうか。世界は、変わるのだろうか。友人が、猫を虐殺する。本人にも、見ていた誰にも、何の変化も訪れなかった。
夜の町をうろつく篠崎は、小遣いを貰って、見知らぬ成人男性に体を弄ばれた。家に帰って、少女にように体を洗った。汚らわしさを水に流した。貰った金を、燃やす。燃やすとどうなるのだろうか。自分は変わるのだろうか。しかし、何の変化もなかった。
篠崎は中学校に通わなくなった。年上の人と同棲し、他にも何人も女と関係を持った。女のアパートと実家を行き来した。
全て運不運だった。不運だった友人達の取り返しのない姿を見ている内に、篠崎は自己の中の怪物と折り合いを付け、怪物のささやきを自覚しながらも、生きていけるようになっていった。
いらだちは五年もすると消えた。しかし、少年鑑別所に入り、そこで暇がてら、サリンジャーの「ライ麦畑で捕まえて」を読んだ。登場人物の「私の飼っている金魚だ。見るな」というフレーズが、妙に頭に刻まれた。(06/01/11)
中学で大人の女を知った。高校は中退した。十六で、年上の女と同棲が始まったが、どちらの親も同棲に反対しなかった。しかし、篠崎の浮気癖に女の親がまず見切りをつけた。女は妊娠していた。女は親の説得を受けて堕胎した。
事情を知った篠崎は、女と暮らしたアパートを出て行った。タクシーを呼んで乗り込む篠崎に、泣きながら後を追いかける女の姿が見えた。タクシーが発進しても女は追いかけてきた。
篠崎は女と別れてすぐに別な女と同棲が始まった。
篠崎は職を探した。商店に計算機やレジスター、耐火金庫を売る営業を始めた。十代ながら営業成績は群を抜いていた。営業のたびに女にもてた。商家の主婦達で、たいがい四十過ぎの年上の女だった。篠崎は征服欲支配欲が満たされ、快感を感じた。
何人もの女と付き合い、小遣いをもらった。女の給料が入る二十五日過ぎや、ボーナスシーズンは忙しかった。一日に四人の女と行為することもざらだった。
篠崎の女関係を両親は咎めることがなかった。ただ放蕩者だった父は
「何時か、さされるぞ」と言った。母親は女達からの電話にうんざりし、女達には
「そんな子はうちにいません」と答え
「電話番号は教えるな」と篠崎に言った。
若い女と付き合うこともある。若い女の給与を考えると、小遣いも期待できず割に合わない付き合いだった。
付き合ったかつての女と、別の女とのデート中にすれ違ったことがある。別れた女は子供の手を引いていた。篠崎は振り返ったが、女は振り返らなかった。
「若い女は教えるのが面倒だ。四十以上の人がいい」そう嘯く篠崎を男友達は呆れて見ていた。
数え切れないほどの何人もの女と関係をもった。事情でJR寝台車を使うとき必ず女とできた。特異だったのは出産の為里帰りをする子づれの臨月の女ともできた。女は子供を寝かしつけたあと、全裸で篠崎の寝台にもぐりこんできた。
パチンコ屋では暇な主婦がうろうろしている。気が向けばホテルに連れ込んだ。女を残して帰るのでたいがいホテル代は女が出すことになる。
篠崎の部屋に来た、セールスレディは思いもつかぬ事になる。丁重に優しく、契約を取るかのように振る舞う。女たちは、優しい男の魔力に飲み込まれていく。篠崎はなにげに肩に手を回したり髪にふれたりして反応を確かめ、和姦に持ち込む。
60代くらいのセールスレディと事に及んだとき、女はびっくりして声も出せなかった。女は一言も言葉を発しないまま服を整え部屋を飛び出した。
篠崎は、走り去る女の靴音の乱れを聞いて笑った。
同棲する女が何人か代わり、十八歳の時、一人の美しく貧しい女性と知り合った。
同棲するために、家具や金が必要だった。物色しに実家に行ったところ、留守でカギがかけられていた。篠崎は、屋内に侵入し家財道具を、道具屋を呼んで売り払った。道具屋に被保険者証を見せ、テレビ、ソファ、サイドボードなど一切合切売り払った。親からは連絡は来なかった。道具屋に連絡を付けて、買い戻していた。
その女性と結婚し、子どもができた。篠崎はまだ十代だった。浮気でさんざん妻を苦しませ、仕事も長続きせず、金遣いが荒かった。結局は、妻子を養うことができなくなって、妻子を連れて実家に戻った。ある日、妻子を実家に残したまま、篠崎は家出した。妻だった人は、精神を病み子どもたちを篠崎の母に託し家を出た。
いろいろな職を転々としてきた。喫茶店の雇われマスター、酒場のバーテン。営業。
二十代で、都内で、ポルノショップを開店した。とある、芸能人も良く買いに来ていた。歌っている歌詞と買っていく商品に、ギャップがあった。裏ビデオの販売をやった時は、月に五百万は売り上げた。
輸入ショップを開いたこともある。
篠崎は運転免許を持っていない。教習所に二度ほど通ったが、常に教官と騒ぎを起こし取ることができなかった。
(06/01/12)
篠崎は、近年主婦とばかり付き合い、小金をせしめる。働きもしないで、ごろごろしている。離婚してくれ。自分と一緒になってくれ。あなたも言われたでしょう。主婦の小金をせしめて、骨までしゃぶる。とにもかくにも、優しい男だから、みんなが騙される。夫が有ることをわかっていて手を出すの。ろくでなしに決まっているじゃない。夫の金まで見こんでいるのよ。結婚を口にすれば、女は金を出す。あんな男と結婚なんてできないし、離婚なんてできないから、一時しのぎでも篠崎をなだめる。そうして、金を出させる。保証人がいないから、アパートも借りられない。保証人になってくれる女を捜す。そんな男よ。
篠崎が女と付き合うのはせいぜい二年。直ぐにぼろが出て次の女に手を出す。私と付き合い始めてからも私が知っているだけでも一、二、三、……六人。いえ、七人の女と浮気していたのよ。それもほとんどが主婦。
篠崎が、付き合ってきた女達を何人も見たけれどまるで共通点がない。たいがい好みというものが、どこかかしかにあるはずなのに、見あたらない。まあ手当たり次第と言うことなのかしら。これからも、すぐに、女ができるわ。その、才覚はすごいのよ。
自分の娘達よりも若い女と付き合っていた。その子を見たけれど、まあブスよ。首から下はどうだか知らないけれど、まあブスだった。誰でもいいのよ。
あの男と関わりを持ったために私はあの男に骨までしゃぶられて、せいぜいあと二年、生きられたらいいと思ってる。ひどい男よ。人の善意や弱みや情を利用できる男なの。あの男が他の獲物を見つけて私から離れた時、正直ほっとしたの。厄介ものを押しつける事ができて。おかげでここ二、三年穏やかに暮らしてこれた。夫は寛大な人で私達、信頼しあっている。私、今夫に尽くしている。後の人生をかけて尽くしている。夫は大事よ。夫を苦しめたくはないでしょう?
金もない、家もない、仕事もしない、そして、女にだらしのない。ないないづくしの男よ。どうするの?あなたが養っていける? 結局誰にも相手にされなくなって、最後はホームレスになった男よ。」
Yの話は尽きなかった。
「篠崎は私には何でも話すの。あなたにはとても言えないようなこともしてきた男よ。主婦を騙して風俗に沈める。そんなことくらい平気でやるの。篠崎は、あなたのおかげで落ち着いて、今でも高槻の女と会い続けているの。篠崎にとってその女はブランド品よ。手放すわけがない。慎重に付き合っているわ。わざわざ新幹線に乗って、女に会いに行って関係を続けている。女が相続か何かで金を持つ事を待っているのよ。」
「あいつは、欲のかたまりよ。欲しいものが、我慢できないの。それで、すぐに借金をする。逃げ回る。住所不定の犯罪者なの。住所がないから、ポストみたいなものを借り続けていた。自分のことしか考えられない。騙して苦しめた相手に、ゲームだ。これが社会だって、ひょうひょうと言い放つことのできる男なの。羽振りがよかった事もある。嘘がうまいから誰もが騙される。約束や人の信頼を平気で裏切る。それで誰からも相手にされなくなる。場所を変えて、また嘘をつく」
「犯罪者・・・」
「でも安心して。あの男は小心者なの。自分の犯罪の成立には、恐ろしいほど注意深いの」私の動揺を察したYは慰めるように言った。
篠崎が、破滅させてきたのは女だけではない。男も引っかかって、だめになっている。うまいことを言って皆から金を集め、使い尽くして、ひらりと逃げる。自分だけは決して、墓穴を掘らない。罠に、はまって、尻拭いをする者が何人もいた。篠崎にとって、他人は駒。女を利用し、男をつる。
篠崎から逃れるために、タクシー強盗まで働いた青年が居た。サラ金から借金までして男に金を渡した青年もいた。金を返せという青年に篠崎は
「事業が失敗したから、投資を返せって言うのは通用しないだろ」と、せせら笑った。
「もう、篠崎と関わり合うのはおやめなさい。私だからあの男と渡り合ってこれたの。私はいつ死んでもいいと思っているから。だけど、あなたは。あなたは、あんな男に関わってはだめ」Yは言った。
「あなたを、あの男に引き合わす結果になってしまって申し訳ない事をしたと思っているの。あなたはまだ付き合い始めて間もないから、私の言い分よりもあの男の言い分を信じてしまうかもしれない。だから。私の言葉を覚えておいて」
私達は精算して別れた。
(06/01/13)
法人設立に奔走した五月のとある日、定期訪問中の老女Kが、パソコン教室を開くので生徒を紹介してもらえないかと私に言ってきた。聞くと同居していた篠崎がパソコン教室をKのうちの一室で開くと言う。
「とにかくパソコンのことなら何でも聞いてみたら」Kは勧める。
「ほんと」私は喜んだ。
「料金は」私は聞いた。
「あっちの部屋にいるから聞いてごらん」Kはにっこりと笑い、あごで部屋を指した。
私はノックする。中からどうぞとの声が聞こえる。ドアを開けると篠崎が椅子を回転させ私を出迎えた。
目前にいる篠崎の全体から醸し出される暗いかげりが、私を圧倒した。
篠崎は、もうひとつ丸椅子を用意し、パソコンの画面の前に私を座らせた。
篠崎に接近し、間近に端正な横顔を見て、しかし、目じりのしわも見逃さず三〇代後半と私は踏んだ。Kの娘は弁護士だと言う。金の力で、若い愛人を囲うことくらいできるのだろう。夫に見つからないように愛人を母の家に囲う。母の介護も兼ねる。
私は自分の仕事にパソコンが必要なことを篠崎に説明をし始めた。
「手短に話して」と篠崎はさえぎった。
私は言葉を飲みこんだ。けっこういやなやつかもしれないと、思った。
「教室なら何人か生徒を紹介できます」にぎやかなほうがいいと、私は言った。
「いや、そんな大げさにしなくたっていいんだ」篠崎は答える。
「料金は」私は聞いた。
「Kさんに少しでも親切にしてくれるなら、お金なんて要らないよ。僕のほうはネットビジネスで稼げるから」
私と篠崎は出会った。
ある日友人のホームページの仕事を請け負っていると篠崎は言った。
「いくらくらいで請け負っているの」
「簡単なのは五万から」
「じゃあ私の会社のホームページも頼みます。八月開業の予定だから八月一日に間に合えばいいよ。閑なときに少しずつで。簡単なベースができたら私がいじれるように教えて」
「法人としてドメインを取るんだよね」篠崎は念を押した。
「うん」
「法人の印鑑証明ある」篠崎は私に聞いてきた。
「今度持ってくる。ドメイン取るのにいくらかかるの」
「とりあえず、接続料その他で三万くらい実費がかかる」
「お金持ってきますね」私は答えた。老人介護を献身的に行っていた篠崎を私は信じ切っていた。(06/01/15)
水曜日に篠崎は事務所で留守番をして、机の搬入の立ち会いと撮影をしていた。私は仕事を抜けられなかった。夕方、プリントアウトされた写真を受けとる。
「どんな音楽聞くの」篠崎は聞いてきた。
「何も聞かない。仕事ばかりの人生だ」私はぶっきらぼうに答える。
「映画は」
「結婚して以来みていない。あ、お子様映画は子供と見に行った。ほとんど寝ている」
「結婚しているんだ」篠崎は驚いたように私を見つめた。
「いくつだと思っているの。結婚していないほうがおかしいでしょう」私は言った。
「へー」篠崎は、私の姿を見下ろした。
Kのうちで私は自分の子供たちのことをよく話していた。篠崎も解っていると思っていた。どうも話がかみ合わない。考えたら篠崎は私のプライベートをほとんど知らない。私だって篠崎のことを知らない。私はただKが回復していることだけ知っている。
「人があなたのことをどんなに悪く言っても、私はあなたを信じる」私は言った。
「悪く言ってるったって、君がリークしているんじゃないの」篠崎は言った。
「私はKさんが、回復していることを知っている。ただそれだけだ。老人介護はそんなに生易しいものではないもの」
Kの家に居続けて欲しい。年金は二人で使い尽くせばいい。また振り込まれる。家賃も光熱費も引き落としだ。生活する分に不足はない。ヘルパーの間では、篠崎が老人介護をしている理由は財産目当てだという噂が立っていた。篠崎が何らかの行動に出るとすれば、私が止める。私は思っていた。(06/01/17)
二人で看板を張る約束をして十二時に事務所で待ち合わせをした。先に着いた私が待っていると、篠崎は、注文していた看板を四枚もって現れた。床に看板を置き、両面テープを買ってくると言って、すぐに出かけた。両面テープを買ってくるついでに篠崎は、ミスタードーナッツで、ドーナッツとコーヒーを買ってきた。和やかに会話する。珈琲を飲む。ドーナツをかじる。くつろいだ一時を過ごした後、さてと、二人は立ち上がった。
まずは一階の看板から。曲がらないように。慎重に。
次は二階だ。
最善の位置を決めるために、私が看板を押さえている間に、篠崎は道路に降りて看板の位置を確認する。
「OK」篠崎は私に合図する。
「この高さだね」私は印を付ける。
いよいよ看板をはろうとしたとき、篠崎は
「あれ、変な親父がいる」私を振り返って、言った。
「こっち見てるよ」
路上の六〇代位の男は、地上においた私の事務所の看板を見ていた。見上げて、二階の窓一面に内側から看板を張ろうとしている篠崎を見た。
「あれ」篠崎は怪訝な表情をした。
二階と道路で、篠崎たちが互いを確認しあうように見つめ合った。
「あ」篠崎は懸想を変えた。
「債権者か」私は冗談で言った。篠崎はかまわず、一度ドアを出た。再び戻って、私の目を見据え、
「必ず連絡取るから」と言った。目が真剣さを語っていた。
篠崎はドアを開けた。廊下に出て、しかし、やくざと篠崎と鉢合わせしたのか、部屋に舞い戻り、ドアを閉めて鍵をかけた。
外の男たちは、ドアをどんどんたたいて、篠崎を呼び捨てにする。
篠崎は事務所の中をうろうろしていた。
私は椅子に座った。
「ごめん」篠崎は私に言った。
部屋の外の男達は、さらに激しく篠崎を呼んだ。ドアがたたかれ、ドアノブがガシャガシャ鳴り続けた。
「やくざか」私は聞いた。
「やくざなんて言葉は使うな」篠崎は否定した。
二人は、廊下の騒ぎを放置する。
「君に迷惑かける。どうしょう」
「警察呼んで」私はしばらくしてポツリと言った。(06/01/16)
騒動の中、外の男達は私の名字を呼んだ。
篠崎と私は、鍵を開けずに警察の到着を待った。私は椅子に座ったまま、事が動き出すのを待った。頭の中は空っぽだ。
十数分経って、警官が二名到着した。
「遅すぎる」と篠崎は携帯の通話記録で通報の時間を計って独り言を言った。
外で、男たちが話し合っている。
「警察です」
篠崎はドア越しに警官を確認した。篠崎は警官を私の事務所に入れた。警官を入れて、ドアに鍵をかける。篠崎は警官にこの場を逃げたいと言った。とにかく今は会いたくないと。私はぼんやりと二人のやりとりを見ていた。
「貸した金は返さないとだめですよ」
若い警官は、篠崎に言った。
「もう時効で、民事で解決済みなんです」何度も篠崎は警官に訴える。
「ここから逃げさせてください」
しかし、警官は、警察が逃がしたことになるからそれはできないと言った。
「話し合ってください」
篠崎は一名の警察に付き添われ、私の事務所から出て行った。廊下で話し合っている。もう一名の警官が私の事務所に残った。
なぜ、警察の手を振り払って、逃げないのか。走れば振り切ることができるだろう。私はぼんやり思った。
残った警官は、篠崎との関係を私に聞いた。
「看板を手配してもらいました」
取りつけ中の、ラミネート加工された看板は、床においたままだ。内装をすませたばかりの事務所。
「明日が開業なんです」
「あ〜あ」警官は事務所を見回し私に同情を寄せた。
私に聞いて、私の住所と生年月日、連絡先などをバインダーに挟まれた用紙に書き込む。
廊下で警官に同様に事情を聞かれたやくざ風の男二人と篠崎が、再び私の事務所に入ってきた。篠崎の、そわそわした様子。目と目を合わせる私と篠崎。警察は、ここじゃなんだからと貸しビルの一階の玄関ホールに皆を移動させた。
私は少し迷ったが、一緒について行った。篠崎は、落ち着かず「忘れ物がある」と再び、事務所に行った。
玄関ホールに、私とやくざ風の男たち、警官一名が残された。(06/01/17)
私は疑問に思っていたことを男に聞いた。
「どうしてここが分かったんですか」篠崎が私の事務所に長時間いたのは、電話工事と事務机の搬入の立ち会いのときくらいだ。警官がいるため男は柔らかく答えた。
「いろいろあるんだよ」
「だって、あの篠崎さんがここに来たことなんかなかったんですよ。せいぜい二回です。今日だって、看板の取り付けの手伝いのためにだけ、たった今来ていただけです」
「二回も来ていたら分かるよ。ありとあらゆるところに手配していたんだから。八年もよく逃げ切ったよ。油断したんだろうな」
「どう、手配しているんですか」
「篠崎の居場所を教えたものに五万払うことになっている」
「五万の男ですか」私は鼻で笑った。私の馬鹿にした口調に男は
「それだけじゃない。身柄を抑えて回収できたら、貸した金額の何パーセントかを支払う」と弁解した。
「いくら借りているんですか」私はくってかかった。
「一五〇〇万だ」男は、反り返って言った。
「その内の金利はいくらですか」私はすかさず聞いた。警官が見ていることに躊躇しながらも、
「うちは金利は一銭も取っていない」と、男はムキになって言った。
「なぜ、私の名前が分かるんですか。近所を歩いていて、ここに来たことが分かったって、私の名前が分かるわけないでしょう」
詰め寄る私に、男は動揺した。
「いろいろ裏があるんだ」
警官は男と私のやりとりを眺めていた。そこへ、二階の事務所に忘れ物を取りに行ったはずの篠崎が降りてきた。
「なんだ。逃げなかったんだ」私は言った。男たちは目を合わせた。
篠崎とやくざたちは、場所を変えると言った。(06/01/18)
なぜ、警官はついて行かないのかと私は思った。やくざに連行される篠崎の身柄が心配ではないのだろうか。
三人が出ていったあと、警官たちは用もないのに、玄関ホールに立っていた。
私の携帯が鳴る。
友人たちが開業を祝って、明日行きたいとの電話だった。私は立て込んでいるので遠慮してくれと話した。
警官が篠崎とやくざの会談に付き添うこともなく、立ち去らないので私は聞いた。
「明日、相模湖に浮かんでいるってことはないんですか」
「それはないでしょう」
「連絡が付かなくなったら、警察にまた電話していいですか」
警官はうなずいた。
私の携帯がまた鳴る。夫からだった。私は事情を説明した。
「雇った人が、債務者だったらしく、取り立てに来たみたいだ。もう、やくざはどこかに行った。警察も入っている。大丈夫」
警官は私のしどろもどろの説明を聞いていた。私は警官達を鬱陶しく感じた。
また私の携帯が鳴る。
「シャノアールにいる」電話越しに篠崎が声を潜めて言った。
「シャノアールにいるんですって。シャノアールって、どこですか」私は警官に聞いた。警官どうしは目を見合わせて、
「分からない」若い方の警官が答えた。
どうしてシャノアールに行ってくれないのだろう。しばらくして、私の迷惑そうな態度を察したのか、警官は、連れだって立ち去った。何か言いたげだったが、警官は職務に忠実に、何の情報も私に与えなかった。
私はいても立っても居られなくなり、事務所にカギをかけて、外に出た。闇雲に歩いた。いい加減歩き回り、事務所に戻る。
私は時計を見た。四時になっていた。帰宅することにした。
帰路の途中、声を潜めて、篠崎から、
「事務所のファックスを貸して欲しい」と電話があった。
「どうぞ」私は答えた。(06/01/19)
シャノアールで男たちは商談をまとめていた。私を呼び出し、脅かせば、話は展開する。篠崎は私に電話して来た。私は男たちの意図が理解できずにシャノアールには行かなかった。ただ、能天気に「借金は働いて返せばいい」と励ましのメールを篠崎に送って、家に帰った。男たちは、私が来ないので、また事務所に行こうということになった。
「ファクスを借りたい」と篠崎は電話してきた。
男たちは連れだって、篠崎に鍵を開けさせ事務所に入りこんだ。しかし、私は帰宅して、そこにはいなかった。私は男たちの意図が全く理解できていなかった。
「明日事務所に行く」と言うことで、篠崎は解放された。
男たちと別れ、その後すぐに篠崎はYを呼び出していた。
Yと話を済ませた篠崎は、私を呼び出した。
夕食を済ませていたので、私は篠崎の呼び出しに応じた。(06/01/20)
私達は話し合った。
「奴等はまた来る。どうしよう。君に迷惑が掛かる」
私は黙り込んだ。
「ちくったのは、Yかな。Yだったらショックだな」篠崎は独り言を言った。
「これからどうするの」私は篠崎の顔を見て、聞いた。
「今回は逃げないよ」篠崎は答えた。
「借金は正確にいくらあるの」私は聞いた。
「いくらってあいつら言った」篠崎は私に逆に聞いてきた。
「一五〇〇万」
「それくらいになるのかなあ」
「どうして分からないの」
「あの業界は特殊でね。当時はみんなが連帯保証人になっていた。特に俺は、頭だったから、すべて背負い込むことになる」篠崎は業界のことを細かく説明した。
「返すの」
「返すしかないだろうな」
篠崎は目を閉じて、物思いにふけっていた。
「弁護士に相談できないの。破産宣告とか」私は聞いた。
「あいつらが引き下がるわけはない」
「警察は」私は聞いた。
「警察が役に立たないのは、今日で分かっているだろう」篠崎は言った。
篠崎はかつて、事業をしていたときに、どれほど稼いでいたか私に言ったことがある。身辺をきちんとして、働きに出れば何とかなる金額だと私にほのめかした。
「逃げてはいけない」篠崎は自分に言い聞かせるように言った。
「一度逃げて十年も無駄にした。その轍はもう踏みたくはない」
「明日、やつらの事務所に行って来る。ここに押しかけられるよりはいい。Kさんのところに来られてもまずい。一緒に来てもらえないか」
(06/01/21)
翌々日、篠崎は再度、話をつけにやくざの事務所に行くと私に言った。私は本気で心配した。私は篠崎の事を良く知るYに電話する。
生命の危険があること。警察に連絡する前にYに確認を取ろうと思ったこと。その他、Yに話した。
「大丈夫。篠崎を殺せば回収できないのよ」Yは言った。そして続ける。
「向こうはお金が返ってくればいいんだから、多少殴られるようなことがあったって、それ以上手荒なことはしないわ。今日帰ってこなかったら明日私が話をつけにいく。警察になんかに通報しないで。向こうは成人なんだから六時や七時で、あたふたすることはないの」Yは落ち着き払って言った。
「これから会える」Yは私に聞いてきた。
「はい」私は答えた。夕食の準備は済ませた。出かけることができる。
喫茶店シャノアールで待っていると、Yは言った。シャノアール、やくざに囚われた篠崎が私を呼び出したところ。私は、また、そこかといやな気がした。さらに、シャノアールは駐車場がない。しかし、Yの便宜を図ることが優先だと思った。
私は指定された喫茶店に入って、Yに会釈して席に着いた。Yが何を飲んでいるか、目の端で確認し、同じアイスコーヒーを注文した。
「私どうしていいか解らない」私はYに訴えた。
「どうしたらいいんでしょう」私はまずYの希望を聞いた。
「借金を申し込まれた?」Yは聞いてきた。
「はい。お金を貸して欲しいって。元々そんなお金ないし。でも、関わってしまって。後味の悪いことにならないで欲しいんです」
篠崎は前日、300万貸して欲しいと言ってきていた。後はどうするの?と聞くと、ローンを組んで返していくとのことだった。だったら嫌だと私は答えた。300万は有限会社の資本金だ。ローンを組んで返すのなら、全額そうすればいい。
「あなた、お金を貸さなかったことは上出来よ。お金は絶対に貸さないこと。あの手この手を使ってくるだろうけれど、けっして貸しちゃだめ。あいつの目的はそれだけなのよ。放っておきなさい。自業自得なんだから。それから私達が合ったことは絶対に篠崎に言わないこと。約束できる?」Yは聞いてきた。私はうなずいた。
「篠崎がうそをつけば私にはわかるの。あなたが約束を守らないんだったら、もう、私は知らない。助けない。私は篠崎に母のうちから出ていってもらいたいの。それだけなの」
「どうしてですか。Kさんは回復しているのに」私は聞いた。
「大きなお世話なのよ。回復されては困るの。私はせいぜいあと二年、生きられたらいいと思ってる。だから母にも二年くらいで調度一緒くらいに死ねたらいいと思っているの。他人が口出すことではないの」
私は、言葉を失った。
(06/01/22)
「あなた、篠崎と事業をやるんですって?」 Yは聞いてきた。
「とんでもない。私がやるんです。彼は関係ありません」 Yは、不信気に私を見つめた。
「彼はホームページを作ってくれるって。電話番をしてくれるって。ホームページ製作代に二十万渡しました」
私は言った。事務所でインターネットをしながら電話番をするという篠崎のために、最速のADSL回線を契約した。あれこれと私の出費はかさんでいた。
「あ、それと、コンピューターと看板を手配するからって、会社の貯金通帳を渡しました。五十万入ってます」
「戻ってこないわよ」 Yは気の毒そうに確信を持って言った。
「警察に行ったら」
「馬鹿ね。そんなことに、警察が動くわけがないじゃない」 Yは物知りげに言った。
「あなた、乗っ取られるわよ。私のときもそうだった。金を出させて、事業を初めて、もうけが出たら、使いまくり、失敗したら、とんづらよ。そう言うことを繰り返しているの」
「乗っ取られるどころか、開業の日に」正確には開業日の前日だったが。
「やくざに押しかけられて。こういう仕事は信用が第一ですから。主人にもしかられて、事業を止めるように言われています」私は静かに言った。
「止めることはないわ。のんびりやることよ」 Yは言った。
「ただし、篠崎と関わり続けたら」 Yは私の目を見つめた。
「破滅よ」
(06/01/23)
「篠崎と関わってはだめ。あなたの家族まで大変なことになるのよ」Yは真剣になって私に言った。
「わかりました」私は答えた。
「私たちは表の人間よ。篠崎は裏の人間。関わり合ったら、ぼろぼろよ。逃げるときには、騙した相手が起訴しないように周到に布石をおいていく。恐怖や甘い約束。みんな、騙されていながら、逃亡資金まで用意しちゃうのよ。厄介者がどこかに行って貰えるのなら安いものだ、って。嘘と解っていながら、騙される。騙されたふりをしてまで、篠崎を追い払う。そこまで追いつめられるの。あなたには、そんな目にはあって欲しくない」Yは説得した。私は神妙に聞いていた。
「それとも、あなたのところで働いて返していけるのかしら」
Yは試すように聞いてきた。私は首を振った。
「もうだめです。夫にも、しかられました。篠崎さんは出入り禁止です。鍵も通帳も返してもらいます」
「どっちにしろ、あいつらは私のところに来るわ。今のあの篠崎にまとまったお金を返すことなんかできないんだから。次はあなたのところよ。あなたの夫のところよ。私があなたを守ってあげる。だから。今日、私と会ったことは絶対言わないこと。今まで通り、普通にしていて」
Yは思い詰めた目で、私を見つめた。私はうなずいた。(06/01/24)
Iの事務所から帰ってきた篠崎は、まずYと会うためにシャノアールに向かった。子供が寝付いた十時過ぎ、篠崎は私を呼び出した。ファミレスで待ち合わせをした。私が車から降り、駐車場にいた篠崎は私に駆け寄った。私はすたすたとファミレスの入り口に向かう。篠崎はファミレスに入らないうちに、待ちきれずに私に言った。目の輝きが、真剣さを物語っていた。
「ねえ、六百万貸してくれる」
私はYから、篠崎の素性素行を聞いていた。本当に私に借金を申し込んできた。常識というものがないのか。いきなり貸してくれと言う。担保は。返済計画は。
「昨日は三百万だった。六百万出せると踏んだら、いきなり倍か?」私は非難を込めて他人行儀に言った。
篠崎は驚いて立ち止まった。
「そんな大金、貸す関係か」私は聞いた。
「そんな関係じゃないよ」篠崎は動揺を隠すかのように認めた。
「当たり前でしょう」私は吐き捨てるように言った。
このまま帰ろうかとも思った。それで済むことだ。帰ろうか。篠崎を残して。だが。
(06/01/25)
立ちつくす篠崎を気の毒に思った。篠崎の全身からある種の焦燥感が立ち昇っていた。私の対応によって「一つの存在」が消えてしまうのかと私は切なくなった。
「話を聞くよ」
私はファミレスに入った。
ゆっくりとドリンクバーで珈琲を入れる私に、待ちかまえて篠崎は切り出した。
「六百万返せばいいと話が付いた」
「全額私に出させるつもり」
「必ず返す」
「Yさんからは借りられないの」
「そんなお金ないって」
「今夜一晩金策してみて。その結果を聞く」
「いいよ。貸さなくたって」篠崎は開き直って、私を責めた。
私は貸さないで済むのならそれに越したことはないと思った。
「どうするんだ。私が出さなかったら」
「今晩逃げるよ。ただ、後のことは知らないよ」
私はYの言った言葉を思い出していた。やくざは私のところに来る。次はあなたのところに行く。Yは、私を守ってあげると言った。
私はYの顔を思い浮かべた。Yは自宅の玄関先で、果敢に篠崎たちと渡り合うだろう。か弱そうに見えてもYの人生経験に裏打ちされた芯の強さを私は確信していた。社会的な信用もある。一方、私は。事務所に篠崎の行方を尋ねて毎日のようにやくざに押しかけられたら。
私は、私を信じて、会社の立ち上げに協力してくれた仲間たちの顔を思い浮かべた。安い値段で事務所を貸してくれた知人の大家の顔を思い浮かべた。誰にも迷惑をかけるわけにはいかない。篠崎を見た。どんな目に遭うのだろう。Kは篠崎のために家を売ってもいいと言っているという。私はKの笑顔を思い浮かべた。(06/01/26)
篠崎に金を貸して欲しいと言われ、私は、重い口を開いた。
「貸す」と言っても、「気持ちだけ貰っておくよ」という通常の回答を期待していただけだった。
「貸すよ。ただし金策すること。あなたを信用してくれる人がいるかどうか知りたい。残りを私が出す。最後の最後まであきらめないで金策して。そして約束して。何年かけてもいいから必ず返すこと。時期を見て、この町から出て行くこと」
「僕がいなかったらKさんはどうなるんだ。回復しているんだろう」篠崎はKを引き合いにする。
「元に戻るだけだ。時間があれば、フォローできる」私は答えた。
篠崎が来て、一番得をしたのは、Kだ。利害関係とはいえ篠崎と暮らして安心して夜を過ごしている。Kのために私は行動してきた。
認可が下りたお祝いに、私は焼き肉レストランに篠崎を招待した。ふと、私は言った。
「私はあなたに潰されるような気がする」と。
「なぜ」
「あなたは強すぎるから」予感だった。私は曖昧に答えた。
「強いって、僕が」
私はうなずいた。
「浸透圧って分かる」私は聞いた。
「解るけど。どうしてそっちに話が飛ぶ」
「あなたは運が強すぎる。それも、与える運ではなくて、奪う運だ」
「運て何。また、馬鹿な女が好きな占いか」
篠崎は、私のいない事務所にYを誘っていた。広い一面のガラス窓をバックに、優雅に肘掛け椅子に座る。Yに以前の羽振りのいい時期を思い出させるためだ。事後に聞いて、私は不快に思った。
「いろいろな人が出入りするようになると思うけど、ビジネスなんだから」
篠崎は事務所を勝手に使ったことの言い訳をした。
ただ電話番を依頼しただけではないか。ちょっと図々しいのではないか。私は思ったが黙っていた。
金を貸すと篠崎に言ったあの晩。二人で返していこうと約束した。協力し合えば何とかなる。事業がうまくいけば何とかなる。
しかし、Yから聞く篠崎の正体は、酷すぎた。Yは私を試しているようだった。
「貸したって無駄よ。返すだなんて嘘よ。貸してくれと言ってきたら、あなたを馬鹿にしている証拠よ」Yは言っていた。
全てを知っている私から、本当に、篠崎は金を借りるつもりだ。
「出すわ」私は声を絞り出した。
「その代わりこの町から出て行ってください」返済は振込みにしてもらえればいい。
「本気」篠崎は驚愕の表情を私に見せた。目がきらきらと輝いていた。
「俺、女に振られたことがないんだ」
「約束してください」
「わかった」
(06/01/27)
28.子供たちの教育資金に貯めていた百万をおろす
夜中に私の気持ちが変わらぬように何通かメールが来る。朝気づいたメールには、ホームページだけやり遂げたいとあった。どうぞ。
翌朝も私は迷っていた。今日はKの家に行く予定の日だ。篠崎がいなかったら、私はほっとするであろうか。篠崎がいなかったら、篠崎の身を案じながらも、ほっとするかもしれない。
朝一番で銀行に行き、運転免許証を出して、有限会社の資本金と運転資金の合わせて五百万をおろす。女性職員はきれいに百万ずつ束ねられた札を五束出した。私は紙袋に入れる。百万くらいは一晩金策すれば用意できるであろう。
できないかもしれない。分割で払うことはできるであろう。だが、あの、やくざたちと関わり合いを持つことになるかもしれない。すっきりさせたい。私は、キャシュコーナーに行き、子供たちの教育資金に貯めていた百万をおろす。
紙袋に詰めて、Kの自宅に向かう。
篠崎はいた。
Kのケアが終わり、Kに断り篠崎の部屋に行く。篠崎に紙袋を無感動に渡す。昨夜約束した通帳と鍵をもらう。
私が次の利用者宅に向かっているときに、喜びに舞い上がった篠崎から、電話が入った。
「ありがとう。必ず返すからね。これからYに会って、それからIのところに行ってくる」
「必ず返して」私は言った。
私は仕事を着々とこなしていった。私は仕事の落ち着いた二時ころに、思い出したように『終わったら連絡をください』とメールした。その後、メールはしなかった。(06/01/28)
三時にYから、これから会えないかと私に電話が来た。一件顔出しをして、四時には行くと答えた。シャノアールに行くと落ち着き払ったYがいた。やくざの事務所に行った篠崎の身を案じ、いたたまれなくなって私を呼び出したのだろう。私はそう思った。
私は金を出した。もしかすると、篠崎は、Iの事務所に行くことはなく、金を持って出奔し、このまま帰ってこないかもしれない。そんな気がした。
Yの待つ席に着く。
「篠崎は今、Iの所に行っているの。今日午前中、篠崎と会ったの」Yは私に言った。
「何て言ってましたか」
篠崎は私が渡した金を持っている。私は不安になって聞いた。
「金を貸してくれって言うから、ないと答えたわ」Yは答えた。
「あなたにいくら金を貸してくれって言ってきた?」Yは聞いてきた。
「いくらでもいいって。いくらだって、ないものは貸せません」私は嘘をついた。
「貸しちゃだめよ」Yは念を押す。
「貸しません。貸せません。安心してください」私はきっぱりと言った。
「でも、不思議なんです。篠崎さんを拘束するなら、Kさんの家でもよかったのに。その方が確実だったのに、どうして私の事務所に来たのかな」
「どうしてかしら」Yは言った。
(06/01/31)
夕食も済み、七時を過ぎてから、初めて篠崎から私に電話があった。いま、駅についたという。
「ばあさんが心配だから、タクシーで帰る」
「そう」私は答えた。
篠崎は、私への連絡を一番後回しにした。まず、Kに電話し、Yに電話し、それから、
「タクシーで帰る」と私に電話した。どうなったか報告しようともしなかった。
私は篠崎の不可解な行動に昼間から感じていた疑問に答えを出したいと思った。
私は深夜、篠崎に、『会いたい』とメールした。
昨夜来たファミレスで待ち合わせをし、篠崎と私は入店した。昨日と同じアルバイトの店員が、マニュアル通りに
「喫煙席ですか、禁煙席ですか」と聞く。篠崎は持っていた煙草を示した。
「空いている席にどうぞ」若い店員はまた、昨日同様のマニュアル通りに言う。何度も来ているので、店員と私たちは顔見知りだ。マニュアルを言うとき、若い娘は恥ずかしそうに笑った。喫煙席に二人は向かう。注文は、ドリンクバーのみ。席に店員が注文を取りに来る前に、二人は手荷物を置き、セルフサービスのドリンクをカップに注いだ。二人は向き合う。
「帰ってきたんだ」私は言った。篠崎は怪訝な顔をする。
「金を持って、とんずらすると思った」私は言った。
「それが一番利口だな」篠崎は私の疑いを肯定した。
「だが、君にはそれ以上の価値がある」
私は篠崎の顔を眺めた。一息ついて私は言った。
「今回のことは誰が絵を描いたんだ?」
篠崎は息を止めて私を見つめた。私の言葉の意味を理解して篠崎は言った。
「なんだ。解っていたんだ」
(06/02/01)
あまりにも事件は的を得て回っていた。誰かが仕組んだとしか思えなかった。警官か。警官があの時しっかり篠崎を保護していてくれたら。私は判断能力を失わなかった。出来事が急すぎた。
あの日、篠崎は、警官を振り切って逃げることもできた。しかし公務執行妨害を恐れた。警官の体に触れることはできない。篠崎はパニックに陥りながらも慎重だった。忘れ物をとりにいくといって玄関ホールから事務所に上がったとき、一緒に同行した若い警官は、両手で篠崎の進路を遮り言った。
「ここで逃げられたら、警察が逃がしたと言うことで後から問題になります」
「時効になっている債務なんだ。何度も言うが民事で解決済みなんだ」
「借りた金は返してください」警官は言った。篠崎と警官の問答が続く。
「話し合ってください」さらに、警官は篠崎を説得した。
何を話し合うというのか。だが、篠崎は従った。若い警官は、篠崎の手に紙を握らせた。
『何かあったら一一〇番』
紙にはそう記されていた。何か有ってからでは遅いではないか。篠崎は思った。
「話し合い」は、私から金を引っ張ると言うことに落ち着いた。
(06/02/02)
私と篠崎の会話は弾んだ。Yから、篠崎の素性を聞いていたためだ。篠崎の話は興味深かった。
「私は金を出したんだ。聞く権利がある」私は言った。
こんな事聞いては気の毒かなと躊躇して、私が聞くと、本当だよとあっさり篠崎は答えた。
事業が失敗し沖縄に逃げたとき、コンビを組んでいた青年から
「あんさんとはもう、縁を切らせてください」と、土下座されて懇願された。青年がスロットで稼ぎ出した数千万はものの見事に消えていた。
それでも、青年はタクシー強盗を働くまで篠崎と離れられなかった。青年は自分の生命の危機をすら感じていた。
私は篠崎の平然とした態度に驚愕した。自分の行為を自分の魅力の成果のように語る。自慢しているのかのようだった。
「楽しかったな。僕らは若かったし」篠崎は言った。
「その人に悪いと思わないの?」
「思わないよ。あいつだって、随分いい思いをしたんだ」篠崎は平然と言った。
(06/02/03)
「Yさんにはどんなひどいことをしたの?」私は聞く。
「何にもしていないよ」篠崎はさらりと答える。
「あなたのせいでぼろぼろだって言ってたよ」
「感謝されこそ、恨まれるようなことはしていないよ。」
「P企画で借りた金はいったい何に使ったの?」私は聞いた。
「P企画?」篠崎は驚いて聞いた。
「警官のメモ書きに、そう書いてあった」私は説明する。自分の名前を書くときに見えた。
「へー。Iの親父らしいや。警官用にダミーの会社を書いたんだろう」
「ちがうの」
「いや。P企画でいいよ」篠崎は言った。
「といちって言う金融業者からも、金を借りているんだってね。借金は、あちこちにしている。貸したって無駄だって言われたよ」
「そんな名前の金貸しがいたら、漫画だよ。それに、あったとしても十年は経っている。みんな時効になっている」
「時効は関係ない。誠意の問題でしょう」私は訴えた。
「君は法律を知らない」
「知らないうちに、保証人の判子をつかれたって。Yさん言っていたけれど」
玄関ホールでIも「Yが保証人になった書類がまだある」と騒いでいた。
「よく、考えてみろよ。かってに判子を押して、それが通用するか」
「二人でくめば、通用するし、言い逃れもできるだろう」
金を貸すかどうかは、私の気持ち次第だった。私だって、途中何度も、気持ちがゆらいだ。しかしあの日シャノアールで会ったYは、真剣だった。Yの篠崎を案じる様子は、ひしひしと私に伝わった。私を案じる気持ちも伝わった。Yのためにも、私は決心したのだ。
(06/02/04)
「何回結婚したの」私は話題を転換した。
「何回だったかな」篠崎は思い出すような表情をした。
「Yさんに会った?」ふと、思い当たったように聞いてきた。Yと私が何度も会っている事を篠崎は知らなかった。
「Yさんが知っている回数を言えばいい?」篠崎は開き直って聞いてきた。
「苗字を変えるために結婚したんだって?」私はかまわず質問を続ける。
「違うよ。でも、公判でも言われたよ。犯歴を隠すために、結婚したんですかってね」
「偽装結婚て何?」
篠崎は以前、中国人の売春婦と金のために結婚した。横浜の山下公園や中華街、レストランで何枚も二人で並んだ写真を取り、恋文と必要書類を抱え、入国管理局に申請に行った。二人の真摯な恋愛記録に二年スティの有効期間が付いた。ぴったりと寄り添い、見つめ合う恋人たち。篠崎は女の名前すら読めなかった。取り次いだタクシー運転手が百万取り、篠崎は二百万受けとった。(06/02/05)
「主婦専なんだって?」
「主婦はいいよ。体がきれいだし、現状家庭内別居がほとんどだし、」
「詐欺にならないだろうし」私は付け足して言った。
「孫までいるんですって?」私は聞いた。
「十九の時の子だ。女の子だったから、結婚も早かった」
「孫は男?女?」
「聞いたかもしれないが、記憶から抜け落ちている」
「あなたは、自分の子ども達を捨てて何とも思わないの?」
「僕の母親が愛情深く育ててくれた。何の問題もない」
「私に言った作り話を逐一間違えずYさんが言い当てたのにはすっかり驚いたわ。同じ事を何人にも言ってきたのね。そして、その嘘をすべてYさんは知っている。それどころじゃない。あなたの子どもの頃のことまで知っている」
「Yさんとは付き合いが長いからね」
(06/02/06)
十月九日、朝、仕事に向かう途中でYから電話があった。これから、Iの所に行ってくるという。私はあわてた。
「どうして行くんですか。そんな危険なことしないでください」私はYを止めた。
「仕方ないのよ」Yの声は押し殺すかのように沈んでいた。緊張が電話越しに伝わった。
「夕方になったら電話するわ」
「待ってます」私は答えた。
「たぶんお金をあの男は用意できなかったと思うの。これからもあなたに金を貸してくれって言ってくると思うけれど、けっして貸しちゃだめよ。あなたは関わりを持っちゃだめよ」
私は間をおいた。もう、関わってしまった。そして、出してしまった。
「何度もいうけれど、関わりを持ったらおしまいよ」
「解りました」私は答えて、電話を切った。
(06/02/07)
YはK市にあるIの所に居た。
Iが驚いたのは、Yが、回収の事実を知らなかったことだ。Yが、金を出していないことが確かになった。
「きっちりと帯に包まれた札束をあいつは用意してきたよ」
「どこから」
「さあな。うちは、回収できればいい。誰でもいいよ。どっかで金づるを見つけたんだろう」
「そんなにぽんぽん金づるができるんだ。俺も金づるが欲しいな」Iの仲間が言った。
「あなたじゃ無理よ」
Yは即答した。
「今回、頭金が用意できなかったら、あんたのうちに抵当をつけて、返してもらうと篠崎に言った。あんたの親のうちでもいい」
Iは、自分が仕掛けたこの件がYに篠崎から伝わっているかどうか、疑って言った。
「こっちにはそれだけのカードがある。だが、あいつは、Yさんにだけは手を出すなとさ。あんたのために金を用意したんだろう。惚れられているんだな」Iは言った。
篠崎は、Yが、Iに篠崎を売ったことを知らない。篠崎の居場所を教えたとき、Yは、Iとそれだけは秘密にするように約束した。
「誰が出したか知らないが、あいつは今後も利用できる。篠崎をスパイしてくれ。憎いんだろう。高槻のお金持ちの奥様と、渡辺さん。他の女」
「篠崎の債務は、まだあるんだし、あんたが保証人になった書類もまだあるんだよ。有効かどうかなんか、善意の第3者には解らない。」
IはYを脅かした。
(06/02/08)
篠崎とYはシャノアールで待ち合わせて会った。いつもの普通の世間話が続く。
結局篠崎は今回、Yに『金を貸してくれ』とは一言も言わなかった。
「Iさんは僕を買ってくれているんだ」篠崎は言い続けた。Yは、不穏になっていた。
篠崎は何かを待っている。とうとうYは、切り出した。
「今日午前中、Iのところに行ってきたの」
篠崎は平然としている。
「どんな話があったの」
「呼びつけられて、覚悟して行ったわ」
「金を出せと言われたの」篠崎は心配して聞いた。
Yはうなずいた。
「怖かった。でも、出せないと答えたわ」
「で、Iさんは」
「じゃあ、しょうがないって」
篠崎は、Iが回収済みの債権を、そのことについては知らないYに要求していないことに安心した。
「もう、その件については、Yは心配しなくたっていいからね。もう、話は付いたんだから」
「事務所に監禁されて、何人もの男たちに囲まれて」Yは篠崎に訴えた。
「大変な思いをさせちゃったね」篠崎はYをいたわった。
「あとIの親父は何て言っていた」篠崎は聞いた。
「渡辺さんの事業と他の女の情報をスパイしろと」Yはありのまま答えた。
「全く、Iの親父のこそくさには疲れるな」篠崎は言った。
Yの手は小刻みに震えだしていた。
「いったい、誰を信じて、誰を疑っていいのか、何が本当で、何が嘘だか解らない。みんなで私を馬鹿にしているの」Yは言った。
篠崎は首を振った。
「僕は何があっても、君を守ろうとしているよ」
「Iもそう言っていたわ」Yは泣き出しそうに言った。
「例え君が一時の気の迷いで、僕を裏切ったとしても」
篠崎はYの言葉を待った。しばし、沈黙が二人を覆った。
「あなたに謝らなければならないことがある」Yは覚悟を決めた。
「ごめんなさい。Iにあなたの居場所を言ったのは私」
「知っていたよ。怒っていないよ。何度も何度も君を疑って、それでも信じていたよ。もう済んだことだ」篠崎は言った。
(06/02/09)
篠崎とYの会談がどうなったか、私は詳細を聞きたいと思った。家族に食事を用意して、八時にファミレスで待ち合わせをする。
「ちくったのはYだったんだ」
「どうして」
「Kさんの家から出て行って欲しいって。Kさんが憎いんだって。Kさんが男に狂っているってさ。耐えられないって」
「で」
「出ていかないと答えた。Yは、男を売ったんだよ。僕を売ったんだよ。もう、何も言えないよ。最初は、Yのために、Kさんの介護を始めた。でも、今はKさんのためにあの家にいると答えた。Kさんと僕は、お互いに必要とし、されているんだ。Yも納得してくれた」
「そう」
篠崎は、Kの家を出て行く期日を引き伸ばしていた。いつまでも居座っていた。私は11月までとYから聞いていた。
「Yさんを信じていたんでしょう」
「そりゃそうさ」
「Yさんが今日、Iのところに行っているって知らなかったら、信じていた?」私は聞いた。
「信じようと努力した。でも、自分で言ってしまった。彼女があそこに行く理由なんてそれしかないからね」篠崎は答えた。
私はYに恨まれると思った。
「君のことを聞いてきた」
「何て答えたの」
「渡辺さんは今回のことに関係ない。そう言った」
「で」
「どうして、渡辺さんばかり、かばうんだ、って。Yは言ってきた」
「大変な誤解だ。かばわれるどころか、生け贄だ」
「渡辺さんのことが好きなんでしょう。って、言われた」
「で」
「黙っていた」
「否定してくれよ」私は、怒った。
(06/02/10)「Iさんは俺のことを買ってくれているんだ。」篠崎は何度も口にした。
「Iさんはどうでもいい。で、あなたを買って、信用した私への返済はどうするの」
「どうしたい?」
「月5万でいいよ。10年がかりだ」私は言った。篠崎の生活を危惧して返済できそうな金額を提示した。
「それでいいの?」
「いいよ。でも、金ができたら随時払ってよ。約束だよ」
「いいよ。」
「それで、Iさんには何て言って、金を出したの」私は、Iたちとの関わりを嫌って篠崎に聞いた。
「誰ともいっさい関係ない。僕の身辺にいっさいの介入をしないでくれって」
篠崎は言った。
「元々、あきらめていた金が回収できたんだから、喜んでOKしたよ。焼き肉でも食いに行こうって話になって、ばあさんが心配だからって断った。Iさんも年を取った。勢いがなくなっている。もう、いい部下がいなくなっている。僕を当てにして、僕に、まず車の免許を取って、って言ってくれた」
「それから、そうは言ってもYだけは許せないって。Yを保証人にして、追い込みをかけようって持ちかけられた。」
「で?」
「断った」
「許せないって?」
「あの時、返そうと思えば返せる金額だったのに、自分の欲望のために、僕の人生を食い物にしたってさ。40代からの一番働き盛りの男をだめにしたって」
Yと篠崎は、8年前、今回の借金を踏み倒して、駆け落ちしていた。
Iたちが押しかけた日、Yが誘えば、篠崎は今回も逃亡したと言う。だが、Yは誘わなかった。それだけのことだった。
二人の息が合っていれば、私にとばっちりが来ることはなかったのに。私は思った。
(06/02/11)
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クローン病 |