16.耳と三焦経(3)
[P.ノジェ]
1957年に、フランスの内科医P.Nogier(ノジェ)氏は、「耳と人体との関係」という論文を発表し、耳の圧痛点に鍼治療をすると、疾患に効果があること、圧痛のある部位から疾患のある所が分かること、疾患のある所から、耳の圧痛点を予測できることを明らかにした。1969年には、体の部位と耳の対応点について詳述された論文が出ている。
当初彼の理論は、医学界からはほとんど評価されなかったが、中国で文化大革命が起こると、伝統的な医学、針灸治療が見直されるようになり、P.ノジェの理論に基づく治療を実践する医師や鍼灸師が現れるようになった。西洋の医学界で認められるようになるのは1980年代前後で、針麻酔や炎症の鎮静作用が普及に大きな役割を果たした。
[経絡のツボと反射点の違い]
耳の神門という反射点に刺激を与えると、すぐ前頭部から額にかけて、強い気が流れる。1〜2分すると頭の上半球全体に強い気が流れ、数時間続く。この間気が強く流れている部分の機能が上がる。
経絡のツボを使って、同じような変化を起こすには、督脈の神庭というツボを緩めればよい。神門を刺激したときと同じように、すぐ前頭部から額にかけて、強い気が流れる。大きな違いは、神庭の硬結を緩めるため、頭の形が変化することである。この変化は、気の流れが普通の状態に戻っても、元に戻らない。気の流れは、督脈が支配する骨や筋肉全体に広がって行くが、頭の上半球全体に強い気が流れると言うことはない。強い気が流れた最初の変化においては、反射点の刺激と同じように、気の流れのよくなった部分の機能が上がる。神門(反射点)の場合は、気の流れが数時間して戻ると効果がなくなるが、神庭(ツボ)の場合は、他の部分の気の流れが元に戻っても、督脈の気の流れが改善した状態が長期間にわたって続き、督脈の支配する臓器の機能が上がった状態が続く場合がある。例えば、督脈の気が前庭の硬結でが止まっているために、頭蓋骨の可動性が低下し、脳の機能低下が起こって、鬱病が起こっている場合、鬱病が治ることがある。
神庭のツボの位置が正確に分かる鍼灸師は、ほとんどいないと言って良い状態なので、実際に治療を受けると、硬結が部分的に緩んだだけで、芯が残ってしまい、三日もすると、効果がなくなってしまうことが多い。また、壊れ方がひどく、督脈上に他の硬結があると、三日もすると効果がなくなってしまう。また、他の硬結の方が大きかったり、硬かったりして、督脈に与える影響が遙かに大きい場合は、持続的な効果は現れない。そのため、鬱病を治すには、督脈に影響を与える硬結やツボの位置を正確に把握する能力が必要になる。
[根治のために必要な治療点]
難病や慢性病、自律神経失調症、鬱病など、臓器の機能低下によって起こる疾患を治療するには、反射点は使うことができない。根治するには、内臓の機能低下を起こしているツボを見つけ、そこにある硬結を溶かすことで、体型を元に戻し、臓器の歪みを取り、気が止まってしまっている経絡や気の流れが弱くなっている経絡に、正常な気が流れるようにすることが必要だ。
[知られざる耳のツボ]
反射点による身体の気の流れの変化を研究しているうちに、耳には知られざるツボが10あることを発見した。耳の裏側には、全身の皮膚の可動性が上がるツボがあった。皮膚の可動性は、肺経に属する性質なので、耳の肺兪と名付けた。膀胱経上にある肺兪は、肺の機能を上げることはできるが、皮膚の可動性に大きな変化を与えることはできないので、両方の肺兪を治療することで、肺経によって起こる問題を容易に解決することができるように思われた。
翌日、小腸経が支配する筋肉の可動性や小腸の可動性に影響を与えるツボを発見し、耳の小腸兪と名付けた。左耳の小腸兪を緩めると、小腸と小腸経に支配される筋肉の可動性が上がった。ところが、右耳の小腸兪を緩めると、小腸の可動性は上がったままだが、小腸経の支配する筋肉の気が止まってしまった。もう一度左耳の小腸兪を緩めてみたが、小腸経に支配される筋肉の気は止まったままだった。最初原因が分からなかったが、その後の研究で、左耳の小腸兪を緩めると、左側の小腸経に支配される部分の気の流れが良くなるとともに、右側の小腸経に支配される部分の変形が元に戻ろうとするために起こる現象であることが分かった。肺経でも同じことが起こっていたが、肺経に支配される腕の筋肉は今までの治療で、大きな変化を起こし、元の状態に近づいていたため、問題に気が付かなかった。小腸経に支配される筋肉は、腰椎の剥離骨折が原因で、膀胱経に支配される筋肉が緩みきらず、経絡の連鎖で、胆経、小腸経と大きな硬結が残っていたため、小腸兪の治療で、硬結がわずかに緩んで膨らんだとき、筋肉の可動性が悪化し、気が流れなくなってしまったのだ。
耳の裏側には、心包兪と言うべきツボがもう一つあり、表側には、脾兪や肝兪と言うべきツボがあることが分かった。どのツボも、耳の小腸兪と同じ機能を持っているため、肝機能の低下などで全身に硬結があるタイプの人の耳の兪穴を治療すると、自律神経が失調する可能性がある。
[ア門と耳]
自律神経失調症におちいった場合、耳の兪穴の治療では、問題が複雑になるだけで、解決しない。後頭部にあるア門という督脈のツボを緩めると、耳全体が緩み症状が改善する。それでも問題が解決しない場合は、頸椎の1、2、3番から、耳を支配する神経が出ているので、これらの頸椎を緩めると、耳が自然にバランスを取り戻し、問題は解決する。
[耳の兪穴の位置]
右手で左耳の外輪を包むようにつかんだとき、耳の裏の親指が当たるあたりに、耳の肺兪、中指が当たるあたりに、耳の心包兪、小指が当たるあたりに、肺の小腸兪がある。
脾兪と肝兪は、耳の表側にあり、位置的には、肺兪と心包兪の間に脾兪、心包兪と小腸兪の間にある。正確な位置は、気が分かれば、陰の気が出ているので、簡単に見つけることができる。