(1)ブタインフルエンザウイルスにはA型ウイルスとC型ウイルスがある。双方とも人に感染するが、パンデミック(世界流行)を引き起こすのはA型ウイルスだけで、C型ウイルスがパンデミックを起こしたという記録はない。
(2)A型ウイルスは、鳥類や哺乳類、魚類[1]などに感染するが、種を超えてトリからヒトに感染したり、ヒトからトリに感染することは、基本的にはないと考えられる。しかし、鳥類のみに感染していた鳥インフルエンザが変異を起こし、H5N1高病原性トリインフルエンザウイルスのようにヒトへ感染するようになることはある。
A型インフルエンザウイルスは8本のRNA分節からなる核酸が蛋白質の殻に包まれ、殻の表面は、HA(Hemagglutinin)とNA(Neuraminidase)と呼ばれる2種類のトゲ状のもの(スパイク)でおおわれている。インフルエンザの感染は、HAが宿主細胞の糖タンパク質の糖鎖を構成するシアル酸に結合することで始まる。
糖鎖のシアル酸はガラクトースと結合しているが、ヒトインフルエンザのHAはヒトの喉の粘膜に偏在するα2-6結合型のシアル酸とのみ結合し、トリインフルエンザのHAはトリの腸に偏在するα2-3結合型のシアル酸とのみ結合する。その結果は、トリインフルエンザが人に感染したり、ヒトインフルエンザがトリに感染することは、基本的には、ない。
(3)ところがブタの気道粘膜には双方の結合型のシアル酸が存在し、ヒトインフルエンザのHAもトリインフルエンザのHAも結合できるため、ヒトとトリのインフルエンザウイルス双方が感染する。
また、ブタインフルエンザウイルスがヒトに感染し、さらに、現在パンデミックを引き起こしている新型インフルエンザウイルス(H1N1)のようにヒトからヒトへ感染することもある。
(4)新型インフルエンザウイルス(H1N1)のRNA分節中の6分節が、北アメリカのブタインフルエンザウイルスに由来し、感染のトリガーとなるHAが北アメリカのブタインフルエンザウイルスH1N2とH3N2に由来していることは、少なくても2つのブタインフルエンザがブタに同時感染し、遺伝子集合を起こしたことを示している。
(5)また、上記のH3N2ブタインフルエンザウイルスが、ブタ、ヒト、トリの3つのウイルスの遺伝子再集合であることは、ブタにヒトインフルエンザウイルスやトリインフルエンザウイルスが感染したことを示している。
(6)新型インフルエンザウイルス(H1N1)と現在流行中の季節性インフルエンザが、ブタに同時感染すると、遺伝子再集合により毒性の強い合の子ウイルスが生じる可能性がある。
(7)また、新型インフルエンザウイルスとH5N1高病原性トリインフルエンザウイルスが、ブタに同時感染すると、遺伝子再集合により毒性の強い合の子ウイルスが生じる可能性がある。
(8)新型インフルエンザウイルスが今後どのように変異するかを予測するのは専門家でも難しいが、1918年から20年にかけ、全世界的に流行したスペインかぜと新型インフルエンザウイルス(H1N1)の共通点と、人口の増加と交通機関の発達に伴う感染者数の違いに気がついた人は、人類が危機的状況に置かれている可能性を否定できないだろう。
[1]根路銘国明 インフルエンザの流行 THE HEREDITY VOL. 38 No. 11 OCTOBER