新型インフルエンザの感染予防法>第2章 変異するウイルスの脅威>5.「the Mother of All Pandemics」 について

5.「1918 Influenza: the Mother of All Pandemics」 について

初めに

「新型インフルエンザの第2波はスペイン風邪並の第2波になる」ことを予測する「The selection pressure of the hierarchy of murine immunity to the influenza A virus made the second wave of the "Spanish" influenza virulent」は、「スペイン風邪は、遺伝子解析が終了したにもかかわらず、ウイルスがどこから来て、なぜ第2波が想像を絶するほどの毒性を示し、なぜ死亡率のグラフがW型になるのか、スペイン風邪のような強毒性のインフルエンザが再来する可能性はあるのかなどの基本的なことが全く分かっていない」と主張する「1918 Influenza: the Mother of All Pandemics」の著者の疑問に答えるための仮説である。

仮説は高校レベルの平易な英語で書いてあるので読めない方は少ないと思うのだが、友人に見せると、Dr. Taubenberger が書いた「1918 Influenza: the Mother of All Pandemics」 が理解できないため、僕の仮説が理解できないことが分かった。Dr. Taubenberger は研究者としては一流だが文才がないらしく、専門用語を駆使して書いてあるため、読みにくい英文になっている。

趣味でやっている気功治療の患者に、東大より上にランクするコーネル大学を卒業した方がいるのだが、試しに僕の仮説と「1918 Influenza: the Mother of All Pandemics」の印刷したものを読んでもらったら、「これ、アメリカ人が書いたんですか」と驚いていた。1週間後に来たとき、「難しすぎて途中でギブアップしてしまいました」と言っていた。

彼が難しいと思うのであれば、「1918 Influenza: the Mother of All Pandemics」が理解できる日本人は極めて少ないと思われたので、「1918 Influenza: the Mother of All Pandemics」の要点を出来るだけ分かりやすく解説することにした。


「1918 Influenza: the Mother of All Pandemics」 の要点

「1918 Influenza: the Mother of All Pandemics」 の文献としての価値は、スペイン風邪の遺伝子を初めて解析した Dr. Taubenberger が書いたこともあり、分子生物学的観点から妥当と思われる文献をベースにして書かれているので、スペイン風邪に関する疑問を分子生物学的観点から再考することができる点にある。

この論文の主旨は、(1)20世紀に起きた全てのパンデミックはスペイン風邪のインフルエンザの変異により生じたものであることから、スペイン風邪がなぜ想像を絶するような毒性を持つようになったのか解明されない限り、今後起こるパンデミックについて適切な対策を講じることはできない、(2)しかし、スペイン風邪のインフルエンザウイルスの遺伝子が完全に解析されたにもかかわらず、その病原性に関する最も基本的なことが解明されていない、という2点である。

Dr. Taubenberger が言う「病原性に関する最も基本的なこと」とは、「スペイン風邪を引き起こしたウイルスが、どのような生物から来たのか分からないこと」を指している。

この結論を導く分子生物学的な根拠として、彼が提示したのは以下の3点であるが、専門家でないと理解しにくいところがあると思われるので解説を加えた。

(1)スペイン風邪を引き起こしたウイルスのRNAを構成する8本の分節は、現代のトリインフルエンザウイルスのものとは異なる。例えば、ウイルスの核タンパク(NP)の遺伝子配列は、アミノ酸レベルでは類似しているが、ヌクレオチドレベルでは大きな違いがある。
(2)スペイン風邪が流行った1918年前後に捕獲された野鳥の固定試料がいくつかあるが、当時のトリインフルエンザウイルスの遺伝子配列 と現在の野鳥から分離されたインフルエンザウイルスの遺伝子配列の間には違いがほとんどない、
(3)スペイン風邪は人への感染と豚への感染が同時に進行している。


《解説》

A型インフルエンザウイルスは、8本のRNA分節からなる核酸が核タンパク(NP)と結合した状態(RNP)で、脂質層と膜タンパクの二重構造の層の中に保護されている。

1本のRNA分節が1種類のタンパク質を合成するための情報を持っているのが特徴で、例えば、核タンパク遺伝子は核タンパク(NP)を作るための情報を持っている。

タンパク質はアミノ酸を結合することで合成されるが、結合に必要なアミノ酸の情報は、4種類のヌクレオチドと呼ばれる塩基、A(アデニン)、C(シトシン)、 G(グアニン)、U(ウラシル)を三つ組み合わせたコドンと呼ばれる一種の暗号で作られている。例えば、核タンパク遺伝子は1,600個の塩基が連なっているので、この遺伝子は約(1,600/3)個のコドンからなり、この情報に基づいて合成される核タンパクは約(1,600/3)個のアミノ酸が結合していることになる。

タンパク質を構成する主要なアミノ酸は20種類だが、コドンを構成する4種類のヌクレオチドの組み合わせは、64(4x4x4)種類あり、コドンの開始と終止に割り当てられるものを除く全ての組み合わせが、いずれかのアミノ酸に割り当てられている。その結果、例えば、UUA、UUG、CUU、CUC、CUA、CUGという6種類のコドンが同じロイシンというアミノ酸に割り当てられ、GGA、GGG、GGC、 GGUという4種類のコドンがグリシンに割り当てられているというように、複数のコドンが1種類のタンパク質に割り当てられている。

その結果、例えば、グリシンの結合を意味するGGAがGGG、GGC、GGUに変異した場合、結合されるアミノ酸は同一のグリシンなので、合成されるタンパク質は、遺伝子が変異したにもかかわらず、同一のタンパク質となる。このような遺伝子の変異を同義変異と呼ぶ。

同義変異を起こしたインフルエンザウイルスは、元のインフルエンザウイルスと実質上変わらないので、元のウイルスと同様に感染を続けると考えられる。

インフルエンザウイルスが実質的に変異するような非同義変異が遺伝子に起きた場合、非同義変異を起こしたウイルスの多くはウイルスとしての機能を失い淘汰されるが、一部は種の壁を越えて感染するようになると考えられる。

スペイン風邪を引き起こしたウイルスの遺伝子配列がアミノ酸レベルでは、トリインフルエンザウイルスとほとんど同じもであるため、トリインフルエンザが変異して直接人に感染するようになったと思う人がいるかもしれないが、ヌクレオチドレベルで大きな違いがあるため、トリではない他の生物に感染し、その生物間で感染を繰り返し、同義変異を繰り返して起こした後、人に感染するようになったと考えられる。

ブタにはヒトインフルエンザウイルスとトリインフルエンザウイルス両者が感染するため、ブタに感染して、ヒトに感染するように突然変異を起こし、ヒトに感染するようになるケースはあると考えられるが、スペイン風邪は人への感染と豚への感染が同時に進行しているため、このケースには当てはまらない。

以上のような理由で、どのような生物を経由してヒトに感染するようになったのか分からない。
(09/09/14)


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